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#2 城と唄

―闇は、光に憧れて〜光は闇を宥めるが〜その先は空と海のように交わらない〜―


 ついに城壁のある、門の所までやって来た。

 歌声が聴こえる。否、歌声なのか?どちらかと言うと、言霊?

 唱えている様な声が聴こえてきた。

「あの声は何かしら?」

 少女は、少し薄ら寒そうな声色をして、俺に問いかけてきた。でも、俺にもそれは判らない。

「城の中から聴こえてくるな?」

 さっきの狐の言葉を思い出して、俺まで身震いしそうな気分だった。

俺達は、お互い顔を見合わせながら、薄ら笑いをした。それは、怖くないぞこのやろう!って奮い立たせる為の、作り笑い。お互い判ってはいるが、追求する気にはなれなかった。

「とにかく門の中に入らなきゃな?」

 厳重に閉まっている門。これを開ける事が出来るのであろうか?と思わせる程、俺達のはるか頭上まである高さの重厚な門である。

「こういう時、何か唱えないといけないのかしら?」

 少女は、言った。

「開けゴマとか?」

「何それ?」

「知らないのか?」

「知らないわよ」

 あっさり言い切られて、俺はから笑いした。

「んじゃ良い。あるお話の呪文だよ」

「そう。知らなくても生きてはいけるわね」

 可愛くない!返事に一々腹を立てても仕方ないので、俺は、門の扉に力をこめて開けようとした。がしかし、寸とも動こうとしない。

「キミも手伝えよ!」

「か弱い私が力入れても開くわけないでしょ?」

「やってみてから言えよ!この、天邪鬼!」

 俺は、終にカチンと来てそう言った。それに対して怒ったのか?少女は、

「手伝ってください。と言いなさい!」

 って、それは何ですか?命令かよ……まるで召し使いの様に扱われて、俺はムッとした。その為、門を脚で蹴り飛ばした。でも、開くわけが無い。

「なあ、真面目に手伝ってくれないか!」

「それは、力を貸して欲しいと言う事よね?なら、素直にそう言えば良いじゃない?」

「だから、初めから言ってるだろう!」

「はいはい。判ったから、そうやって怒るの止めてくれないかな〜?」

 少女はプププと含み笑いして俺に言った。

 こいつは、俺を何だと思ってるんだろう?只からかっているだけなのか?全く!でも、怒るのも力を使うので止めにした。肩を下ろしてリラックスリラックス。

「じゃあ、押すよ!せぇのー!」

 と言う感じで二人してその門を押した。

 するとどうだろう?あの開くはずも無かった門がズズズ〜っと開いたのである。

 少し開いた所で、俺達が通れるだけのスペースを作り出したので、中に入り込む。

 中に入ると、白い花で埋め尽くされた、ガーデニングと、お城の階段へと繋がる道に出た。道は、白い蝋燭で整った炎で揺らめいていた。

「さて、行くとするか!」

 俺はそう少女に言うと、後ろに居るはずの少女を見る為に振り返った。が、その後ろにあるはずのもんが綺麗さっぱり消えてしまっていることに気がついたのである。

「おい!門が無いぞ!」

「あら、本当。ビックリね」

 少女は言葉こそ驚いた。と取れるが、表情からは余り驚いた風も無い。驚いてるのは俺だけであった。

「何をそんなに落ち着いてるんだ?在った物が無くなったんだぞ!」

 俺は、少女の肩を揺すった。

「気安く触れないでくれない?ちゃんと驚いてるわよ。でも、何があってもおかしくないでしょ?だってこのお城消えるんですもの」

 あ、そう言えばそうだった。消えるお城なのだったと諭された事に、自分で拍子抜けしてしまったのである。

「とにかく進みましょ?それが目的なのだから!」

 真っ直ぐお城を見据えている少女の姿に、狐に驚いたあの時の少女は此処には居ないと悟った。此処に居るのは、好奇心の塊の少女なのだとやっと気が付いた俺であった。


 お城の階段を上る。回りの蝋燭の炎が、俺達の歩調に合わせて揺らめいていた。それがまた、踊ってるかのようで凄く印象的に瞳に映る。

 この階段を上り切ると、そこにはお城の玄関の扉に当たる。

 俺達は黙々とその階段を上った。少女は一体何を考えているのであろうか?俺は不思議でしょうがない。足取りはとても軽く見える。あの泉の水面を駆けるかのごとく。

 そして、何事も無く、扉の前に立ちはだかった。

「ごきげんよう。いらっしゃいませ、お客人」

 扉はいきなり口を開いた。その合図で、扉が開かれた。中は、外からのイメージ通り幻想的な造りをしていた。あらゆる家具は、生活感の無い無味無臭さをかもし出し、誰も住んでないのではないだろうかと思わせるそんな感じがした。そして、白くボーっと光る壁。それが、シャンデリアの光と融合し、より幻想的だった。

 俺達は、山羊のお爺さんに言われた通り、地下を目指す。

「階段を探さないとね?」

 俺は少女に言った。すると少女は、珍しく俺に同意した。

「それが先決よね?でもこの広いお城の何処に階段があるのか?それを探すのが一苦労じゃない?」

 確かに、高い天井に圧倒され、そしてこの幻想世界の中に居るだけで、何だか落ち着かない。だから、余計このお城の構造と言う物が理解できなかった。

「二手に分かれる?」

「いや、分かれて探すのはどうかと思う。きっと、迷子になるか、落ち合えないか?のどちらかだよ」

「全く気が小さいわね〜だけど確かに、迷子になりそう……ね。なら、このお城の中から聴こえるあの声を頼りに探しましょう」

 そう言えば、ずっと聴こえていた声が、お城の内部に圧倒されていたため今まで気にならなかったけれど、考えてみればそれが一番なのかも知れないと思う。

「判った、そうしよう。でも、それで良いのか?疑問は残るけれどもね」

「だけど、此処で何もしないよりかマシだわ。だって、口を銜えて此処に居るなんてバカみたいじゃない?」

 なんという前向きな発言。それも一理あるのだけど、本当にこの少女は前向きだ。自分が何なのか?それを知った時もこう言う言動が出来るのであろうか?俺には疑問だった。

「判ったら、さっさと行くわよ!」

 その言葉に有無を言わせない何かを感じて俺は、情けない事に、少女の後を追ったのである。


 通路を歩く。不思議な事に、このお城は、人が辿った通路の床に紅い印を付けるという変わった趣向がなされるみたいだ。それが迷わない一つの道標みたいな物。

「ちょっと!そこはさっき辿ったでしょう?全く観察力が無いんだから!」

 その言葉で、俺は初めて気が付いたんだけれども。

 そんな訳で、声を頼りに少女の歩に合わせて歩く。すると、歩く半ば或る所から、いきなり雰囲気の変わった通路に出た。そして立ち止まる。そこは、まるで、闇を思わせるほど暗い廊下であった。

「まさかここから先に階段があるとでも思ってる?」

 俺は問いかけた。

「だって、変じゃない?此処だけ他と違うなんて!」

 興味が先走りしているみたいだった。

「でも、『光には闇が付き纏う』と、あの山羊のお爺さんは言っていたじゃないか?やめた方が良いと思うけど……」

 此処に来て怖くなった。何故だろう?この先に何かとんでもない危険が潜んでいそうだ。

「ゴチャゴチャ言わない!そんな事で、どうするのよ!地下にある宝石をとってきて、最上階の王冠に埋め込めば良いだけの事でしょ?この先に何が有ろうと、怖がるような事じゃ無いじゃない!本当、それでも男なの?」

 と言って、少女は、一気にその通路へと駆け出した。仄かな白い光が暗闇の中に、俺の前からス〜ッと去っていく。俺はそれを見失う訳にはいかないと駆け出した。

「何てこと無いじゃない。ただの暗い廊下よ!」

 少女は、ケラケラと軽く笑った。

「だけど、それだけじゃ無いんじゃないのか?ここは、腐臭がするし、ちょっと変だ」

 といったそばに、俺は何かに躓いた。

 それは、何かの白骨であった。

「ちょ、まずいよこれ……何か異様だ。引き返さないか!」

 しかし、少女は、なんとも思ってないらしい。

「無様ね……」

 と、その白骨に向かってただボソリと呟いた。

「おい!そんな風に言うなよ!もしかすると、こう言う事に俺達がなるかも知れないって事だぞ!」

 俺は、少女に対して怒鳴った。そんな言い草って何だ!と言うのも念頭にあったのだ。

「危険である事を承知して入ったのでしょ?それは自分に力が無かった。只それだけの事だと思うわ。何?あなたもそれを肝に銘じているんじゃないの?見損なったわ」

 少女は、立ち止まったその場を、サテンのドレスを翻して前を向いて歩き出した。

 判っているさ。でも、言い方というものがあるだろう。俺は、まだ納得行かない頭のまま少女に付き添う。それが俺の弱さだと自分で何となく判った気がする。


 それからどのくらい歩いただろう?光と闇が廊下を横切って、縞々の帯のように行く手に立ちふさがった。

「何だろう。これ?」

 俺は、その光を触ろうとした。すると、手が、紅く染まった。染まったというより、ただれたと言う感じだ。でも、痛みは無い。

「きつい紫外線?なのかしら……私は、これに触れられない……」

 少女は、そう言って、そこに立ち尽くした。

「紫外線に弱いのか?キミ……」

「そうよ。私達は夜活動して、朝には寝るもの」

 この少女は、自分のバイオリズムに関してはきちんと把握してるらしい。俺は、そう言うことが判らないというのに……

「判った。なら、俺の背中のマントの中に入っていろ。女の子の身体に痣など作るのは可哀相だ……」

 怒っていても、庇いあう事くらいは出来る。俺はそこまで非情じゃ無いつもりだ。

「借りが出来るわね?」

「勘違いするなよ。借りとかそんなんじゃない。助け合いってやつだ」

 俺は、背中の白いマントを肩の止め具から外すと、少女の全身に被せた。そして、少女を抱えると、一気にその通路を猛ダッシュ。カンカンと駆ける靴の音とあいまって、あの声が轟く。地下へ下りる階段が近いと言うことなのか?俺は、軽い少女の身体を抱えてそう思った。


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