ヤンデレの幼なじみから逃げるため 手段を選ばずフラグを立てまくる
『×××。大好きだよ、×××』
校舎を見たとたん、希望が見えた。
ここ、乙女ゲーじゃん。そんでもって、私ヒロインじゃん。
はじめまして。菱川あかりです。
今いる世界は先ほど言ったように、そこそこ知名度のあった乙女ゲーム。
でもソレにハマっていたのは私ではなく従姉妹のJKで、個人的にはバトル系の方が好きなんだけど
今は本当にありがたい!
ああ、違う違う。私の好みドストライクの人がいたからじゃないの。
そうじゃなくて“とある人”から逃れるために最適な場所だって思っただけ!
それを詳しく説明するには、私が生まれる前の話をしなくてはならないんだけれども。
まあつまりは、前世の記憶を持ったヒロインってワケだ。
よく聞いてね?私の前世の死因……『お兄ちゃんに殺された』から、なんだ。
あっちょっと恐かった?
いやいや、別にお兄ちゃんに憎まれていたわけじゃないんだよ?
むしろ恐いくらいに愛され____そう、お兄ちゃんは世に言う【ヤンデレ】ってヤツだったのです!
で、その“お兄ちゃん”なんだけど。
「今日から高校生かー、楽しみだね!あかり!」
………ええ、はい。なぜか私とセットでこちらに転生してきちゃったのよ。【幼なじみ】として。
彼の名前は室野 楓太。
顔面偏差値は高いしスポーツも勉強も出来るしパッと見 性格もいい奴なんだけど…
…本性を知る身としてはもうただただ恐怖でしかない。
ヤンデレの執着心こわすぎるだろ!
「あー最ッ悪!なんであんた付いてきたの?せっかく遠くの高校にしたのにさー」
「偶然だよ。俺もあかりがいるって知ってビックリしちゃった。」
「……嘘つけ」
ちなみに、なんで私がヒロインだと分かったのか。
彼の横にハートのゲージが見えるからだ。
全部で10段階あって、今ハートは5つ。一緒にいる時はすごく嫌そうにしてるんだけど
伝わらなかったようで。
多分、このハートが満タンになった瞬間がゲームオーバーだと思って良いだろう。
____だから、私は誰かに守られ、さっさと逃げなければいけない。
彼に殺される前に。
*
あれから一ヶ月経った。
「あかりちゃ~ん、帰り一緒にクレープ食べに行こ?」
「何を言っている、あかりは俺と帰るんだ。」
「…違う……僕と」
「もちろん俺と帰るんだよね?あ・か・り♪」
はいもう、逆ハーでございますよ。全員ハートは満タン状態。
ちょっと必死になりすぎたかもしれないね。
いっつも皆の前ではニコニコし過ぎてるから疲れるんだけど。
「じゃあ、皆で帰りましょう!」
一人がこんなに恋しかった事はないよ……。
五人ですっかり道を塞いでしまいながらもギチギチになりながら歩く。
本当は誰とも一緒に帰りたくは無かったんだけど、我が儘は言ってられない。
「だから、あかりは俺のものだと言っているだろう」
「いやいやいやっ俺と、だってば!」
早く誰かとくっつかなきゃ…じゃないと“お兄ちゃん”に………
「違うよぉ~、あかりちゃんは僕が貰っちゃうんだから!」
「……何…言ってるの」
あ~でも最近 楓太に会ってないや…アイツに限らず私が他の男子と話すと
怒られるんだもんな~。
じゃあもうちょっとゆっくり取り組んでいれば良かった…。
「あかりは誰にも渡させはしない!こうなったら鎖にでも繋いでやる!」
え。
「はぁ~?甘っちょろいねぇ君は。俺だったら体だけでも残すけど。」
はい?
「あかりちゃんはぁ、監禁と軟禁どっちの方が好き?」
ちょ、え?!
「……ナイフ…あるけど」
はっはあ?!
「ちょっと待ってよ!私をどうする気なんですか?!」
「どうするも何も、あかりが悪いだろう?こんな奴らにも色目を使って。
お前は俺だけを見ていればいいんだ。」
いや何もキュンとしないからね?!
「大丈夫、痛いのは一瞬だからね、あかり。体は俺が大切にするから」
「あかりちゃ~んっもう今日からでも僕の家行こ?」
「…ん…ナイフ……」
ヤバい、これは大ピンチだ。
ヤンデレから逃げようと思ったら救済者もヤンデレでしたってどゆこと?!
「みっ皆、やめて!私まだ死にたくな……ッ」
「こっち」
グイッと手を引かれて、体が後ろに傾く。
4人の呆然とした顔から目を背け体をひねると、そこには私の手を引く
楓太がいた。
「ちょっ、何してんの?!」
「まだ生きたいんでしょ?だったら逃げなきゃ。」
振り向いてニッコリ笑う彼に、私は別の面影を重ねて泣きそうになった。
「お兄ちゃん……ッ!」
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「ハァッ…ハァッ…!」
「此処まで来ればもう平気。怪我してない?あかり。」
こっちはゼーゼーだっていうのに、向こうは汗一つかいていない。
コクンと頷いてから、少し上目使いに楓太を見る。
「なんで……」
「ん?」
「私、あんたから逃げるために頑張って守られようとしたのに、なんで…!」
私は死ぬしかないのか。
選択出来るのは、殺される相手しか無いのか。
「_______ああ、俺から殺されないために幸せになる、だっけ。」
バッと顔を上げると相手はニッコリと微笑んで、「知らないとでも思った?」と
首を傾げる。
「嘘ッまさか…あんた『自分が“お兄ちゃん”だった』事、覚えててっ…?!」
「正確には、ついさっき思い出したんだけどね。泣きそうになったあかり、
可愛かったよ?」
「ばっ!」
唐突に顔が熱くなる。あああああお兄ちゃんだなんて言ったからだ!
此処で殺されたらどうするんだよ私の馬鹿っ!
「いや、前々から何か避けられてるなーとは思ってたんだよ?なるほど、
まあ目の前に自分を殺した奴がいたらそりゃそうなるか。」
「………なんで、私の事 」
「なんでって……嗚呼そっか、あかりはもしかして俺の事、ヤンデレか何かと
思ってるでしょ?」
え、違うの?
「別にそう思いたければそうで良いけど…ま、“お兄ちゃん”から言わせると、
あの状況で俺はあかりを殺すしかなかった、とでも言わせて貰うね♪」
「は?」
「分かんなかったら分かんないままでいいよ。それよりいいの?
あいつらどうにかしなくて。」
向こうでは聞き覚えのある声で私を呼んでいる奴らがいる。
このままだと見つかってしまいそうだ。
「何か言う事、あるでしょ?」
………どこまでも嫌な奴。人が困ってるのを見て楽しんでいる。
でも私は非力だから、誰かをたよらないと生きていけない。
「_____お願い。私を助けて、“お兄ちゃん”。」
「…よく出来ました。」
その数分後、楓太は笑顔で戻ってきた。
何があったのかは聞かないでおくとして、なんで血痕が服に染み付いているんだ。
お前まだ高校生なんだぞ。
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あれから三日が経った。
私は、護衛するため出来る限り常に楓太といる事、という条件に縛られつつも
平穏に毎日を過ごしている。
4人は懲りずに近付こうとしているが、楓太を見た瞬間 真っ青になって
退いてくれていた。
本当の本当にあの時何があったのだろうか。
「あーかーりっ♪一緒に帰ろう!」
「え、あ、うん。」
「どうしたの?俺が待たせちゃった事、怒ってる?」
「そうじゃなくってさあ……」
楓太は最近、委員会の仕事で大忙しだ。
偶然同じ委員会の女子と彼が仲よさげに話しているところを見ると、なぜか
心臓をグッと捕まれている気がする。
______アンナヤツ、シンジャエバイイノニ。
「あかり?」
もう一度呼ばれてハッとすると、心配げに顔を覗き込んでいた楓太と
バッチリ目があった。
もう、やめてよ、そういうの。
そんな顔_______私のものだけに、しちゃいたくなる。
「大丈夫?体調悪いの?」
「え?あ、うん。全然平気っ!______早く、帰ろ?」
この汚い心境を悟られないように、綺麗な笑顔で取り繕う。
ああもう、こうなったら、折り畳み式のナイフでも携帯しよっかなあ……
登場人物に、誰一人としてマトモな奴がいないっていう。
“お兄ちゃん”があかりを殺した動機は、面倒臭いので却下しました(
ご想像にお任せしますですよ。