2話 その4
まだ雨が降り始めた頃。
海咲はいつも以上の無表情で階段を登っていた。向かう先は屋上。
「・・・・・・」
ぽつぽつと雨の降る中、海咲は屋上へと出た。
濡れてしまうことを全く気にかけずに。
海咲は空を振り仰ぎ、口の中で何かを呟いた。。
そして、雨は少しずつ激しさを増していった。
「あれ?藤は?」
生徒会室に戻ったメンバーは藤乃がいなくなっていることに気がついた。
「さっきまでいたと思うんですけど・・・」
それに水樹が答える。
「まあ魔物は片付いたし今日はもう帰ろうぜ。もう疲れた」
フクジュがそう言った。
「なんの活躍もしなかったくせにね」
楓がからかった。
「な、お前っ!」
「冗談よ。あの状況でよく手を出す気になったわよね?ちょっと見直したわ、いろんな意味でね」
相変わらず仲のいいフクジュと楓だ。周りのメンバーは茶々を入れずにそれを見守る。
「あ。藤、先に帰っちゃったみたいです。僕も帰りますね。お先に失礼します」
携帯電話を見ていた水樹はそう言い残して少し急いで生徒会室から出て行った。
「あ、二人の邪魔するのもなんですし僕も帰ります。
会長、誰もいないからって手とか出さないようにしてくださいよ?
もちろん合意のうえだったら別ですけど」
「てめ、紫苑!」
フクジュの焦ったような声を背負い、紫苑も部屋を出て行った。
「紫苑君はああ言ってたけれど」
楓はフクジュを煽るように近づく。
「フクジュにそんな度胸あるかしらね?」
そう言って、笑いながら身体を離した。
綾香は階段を登っていた。どうやら屋上へ向かっているようだ。
雨が降っている時、もしくは降りそうな気配があるとき、海咲はよく外に出る。
それもなるべく高いところ、空に近い場所へ。
綾香は海咲が何を考えてそういう行動をしているのかは理解していなかった。
だが海咲のことだからなにかあるのだろうとも軽く考えていた。
綾香が屋上の扉の前に来たとき、外から話し声が聞こえた。
姿は見えなかったが、海咲と藤乃だろう。
(海咲と・・・藤乃ちゃん?何話してるんだろう?というか、話成立するの?あの2人で)
綾香がそう思ったのも無理はない。
海咲は必要最低限のこと以外は進んで話そうとするタイプでもないし、藤乃に至っては話している所というか声を出しているところを見たこともない。
(そういえば藤乃ちゃん、さっきいつのまにかいなくなってたな。なんでここに来たんだろう)
綾香はそう思ったが深くは考えなかった。
よくわからない組み合わせの2人が何を話しているのかは気になったが、持っていた海咲の鞄を扉の近くに置いた。
校舎に戻ったらすぐにわかるような場所に。そして綾香はその場から立ち去った。