2話 その3
破壊音がした場所は2-1の教室、つまり海咲や綾香の教室だった。
破壊音は間をあけて続いていた。ドアの間から覗くと、黒っぽい大きさをした何かが動いていた。
大きさは人の倍くらいか。しかし、そこにいたはずだった海咲はいなかった。
あったのは海咲の通学鞄だけだった。
綾香は真っ先に飛び出そうとして、止めた。
「今回は任せてみよう」という海咲の言葉を思い出したからだ。
「まさかやられたんじゃ……」
「そんな事ないですよ。海咲、気配には敏感ですから。………それに、強いし」
フクジュのもらした言葉に綾香が反発した。
「悪い」
フクジュはすぐに謝った。そしてフクジュは慎重にドアに近づくと、能力を発動させた。
イスを持ち上げ、魔物に向かって投げつけた・・・ところで魔物が振り返り、それを弾き飛ばした。
結構な速度ではあったのだが、ものすごくあっさりと。
そして狙われてることに気がついた魔物はこちらに向かって走り出した、が、すぐに向きを変えた。
そして、何もない所を殴り始めた。
紫苑だった。どうやら紫苑が魔物に幻覚を見せているらしい。
「幻覚って、魔物にも効くんですね」
水樹が感心したように言った。しかし、魔物が止まる様子はない。
生徒会のメンバーでは足止めが精一杯のようだ。能力的に見て仕方ないだろう。
綾香は足を前に踏み出した。
「おい、何して・・・」
フクジュが言いかけた時、魔物が再びドアに向かって動き出した。幻覚が途切れたらしい。
綾香はポケットに手を入れ、また一歩踏み出した。
そしてドアを開けながらポケットから手を出した。
綾香の軽く握った手が淡く光っていた。
「発動」
手を開きながら言った。
握っていた、親指の爪くらいの大きさの石が強く光った。
と同時にその光は球体になり、一直線に魔物に向かって飛んだ。
その光は十数回か魔物に当たり、数回それを繰り返す手と魔物は光を撒き散らしながら消えた。
綾香は石をポケットに戻し、また、さっきとは違う石を出した。
そしてまた「発動」、と呟いた。
今度は一直線に光るのではなく、辺りに広がるように光った。
その光が壊れた場所に触れると、ビデオテープの巻き戻しのように元に戻っていった。
「・・・何をやったんだ?」
呆然と見ていたフクジュが訊いた。
「何って、魔物倒しただけですよ?小規模な方で良かったです」
なんでもない事のように答えた。
「どうやって?綾香の能力は治癒と無効化・・・だったよな?」
「あ、能力の事ですか。それはこれですよ」
綾香はさっき使った2つの石を手のひらの上に乗せて、取り出した。
そしてそれを見ながら言った。
「能力結晶、です」
「能力結晶?」
「はい。海咲から貰ったんですけど、私もよく知らないので、明日にでも訊いてください」
そう言うと、綾香は海咲の鞄を手に取った。
「もう、帰っていいですか?海咲もいないですし」
「ああ・・・」
フクジュはまだ何か訊きたそうだったが、綾香はそれをスルーしてドアから出て行った。
「ん?藤、どうかした?」
水樹が藤乃に訊いた。藤乃は答えずに綾香の去った方向を見つめている。
外の雨は土砂降りになっていた。