96 プライベートなことも含まれます
「リペアセンターの記録には、アヤを連れ出した者の記録があった」
「プリブ」
さすがにスジーウォンやスミソが目を剥いた。
「そんな!」
「何かの間違いでは?」
イコマは努めて冷静に言った。
「そう。間違いであって欲しい」
しかし、間違いだと決めつけるわけにはいかない。
もし、プリブがステージフォーとやらに洗脳されてしまっていたのなら。
そして、アヤを取り戻しに来たとしたのなら。
部屋の中に、唸り声だけが残った。
「あのリペアセンターに入るためには、スキャンエリアを通過しなくてはならない。ヴェインロード、つまりリペアセンターの前の広い道だが、そこからリペアセンターの待合室に至るスキャンエリア。そこにプリブの名はなかった」
キョー・マチボリーのシステムが正常に機能していたのなら。
チョットマはすでにこの話を聞いている。
今は、微動だにせず、ショールを握りしめて俯いている。
ンドペキは顔を紅潮させて立ち上がり、イコマを見つめ、何か言おうとしたが、結局は目をそらし、天井を睨みつけている。
「街からヴェインロードに入るときのスキャンエリアにも、プリブの名はなかったそうだ」
と言ったところで、凍り付いた場を溶かすことはできなかった。
ドアを叩く者があった。
久しぶりに見る顔。サリの顔。
KC36632。ユウの部下。
狭い部屋を、すらりとした長身の置き場を探すように見渡し、結局、入口近くに立った。
「お取込み中のところ、すみません。ご無沙汰をしています。いつぞやは、大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
と、頭を下げた。
「ん? なんのことだ?」
ンドペキの問いかけに、KC36632は「レイチェル長官が貴隊の隊員に……」と、言った。
KC36632は、自分がサリの姿をしていたばかりに、本物のサリを見抜けなかったことを知っている。
結果としてレイチェルはサリに刺され、水中に没したのだ。
だからといって、KC36632に責任はない。
ただ、今もまたサリの姿をしていることに違和感はあったし、できれば慎んで欲しいという気持ちはあったが。
誰もそれを指摘しないなら、イコマが言うことではない。
KC36632は、きっとユウからの大切なメッセージをもたらしに来たのだ。
はたしてKC36632は、早速ですがJP01、ユウさんからの伝言があります、と切り出した。
イコマさん宛てなのですが……。
「構いません。ここで話してください」
「プライベートなことも含まれますけど」
構わない。
はい、それでは。
彼女が話した通りにお伝えします。




