95 そう。間違いであって欲しい
さすがにチョットマの顔が引きつった。
「ぼろを着てたんだね。それってプリブらしくないかい?」
かつてニューキーツの広場で落ち合った時。
あの時のプリブの変装姿とそっくりじゃなかったかい?
「それに、EF16211892という名前。捻ってみようか」
数字をアルファベットの順番に当てはめてみると、十六番目はP、二十一番目はU……。
EFというのはイーストフォースじゃないかな……。
東部方面攻撃隊……。
「そもそも、それを思いついたのは、もしその男性がコンピュータが作り出したキャストなら、翌週に約束したチョットマとのデートをすっぽかすはずがない」
チョットマは口をあんぐり開けている。
しかし、そこにあるのはまだ驚きだけで、それ以外の感情はないようだ。
いずれ悲しみに輪をかけることになるかもしれないが。
「それに、チョットマの靴を踏んづけたりしない」
ライラが舌打ちをした。
この場で言う必要があるのかい! と、言いたげに。
「警察にプリブが注目されていたのは、ヴィーナス殺しの容疑者として。つまり、マスカレードにプリブがいたからに他ならない」
チョットマとの約束どおり、マスカレードに姿を見せなかった理由はもう説明するまでもない。
警察、あるいは誰かに捕まっていたのだから。
話しながら、イコマ自身も、この話題がプリブ発見に繋がるのかどうか、全く見えてはいない。
しかし、だからこそ、この段階でこの仮説を立てておこうと思ったのだった。
そして、プリブに関してはもうひとつ、重要な情報がある。
チョットマはまた俯いてしまった。
泣くんじゃないよ。
堪えて。
まだまだ先は長いのだから。
イコマは心の中でチョットマに声を掛けてから、言葉を続けた。
スミソがなぜそう思ったのかは、言うまい。
アラブのお姫様に二人目に声を掛けたミドリトカゲが、実はスミソだったとしても。
それをチョットマに打ち明けたのかどうか、知らない。
聞いておくことでもない。
二人の問題だから。
「アヤの件を話す前に、その他の情報を整理しておこう。注目するべき点かどうか分からないが」
サワンドーレの件。
彼がンドペキにささやいた言葉はイコマの耳にも入っている。
神が、ある一組の男女を探しているようです。
それがどんな意味を持つのか、今なら想像することができる。
パリサイドの地下組織、ステージフォーという秘密結社。宗教団体の態をしている。
アヤやプリブの事件は、その組織が関係している。
言い切れるものではないが、今のところそう考えておくのが普通だろう。
サワンドーレはアヤを知っている。プリブも知っている。
講師として。
あいつが、何らかの手引きをした。
考えられないことだろうか。
サワンドーレは講義に顔を見せなくなった。
それはとりもなおさず、警察ないし治安に拘束されたからではないのか。ステージフォーの構成員のひとりとして。
現に、その娘であるキャンティも元旦の講義に来たのみ。
二日には顔を見せず、また他の人に変わってしまった。
「もう一点、キョー・マチボリーの情報、実際はアイーナから聞いた話だが、パリサイドに着陸する船の名簿にない名前が、百ほどもあるという」
パリサイドだけではない。地球から来た者の名も数十ばかり含まれるという。
このシップの乗組員や関係者を除いて。
そのリストまで見せてもらったわけではないが、アヤの名も、プリブの名も搭乗者名簿にない。
最後に話すのはアヤの件。
アヤを襲った犯人は見つかっていないし、父親を名乗って連れ出した者も見つかっていない。
アヤを拉致した連中も特定できていない。
「実は、とんでもない情報がある」
これを話すことが辛かった。
嘘であって欲しい。
何らかのまやかしであって欲しい。




