94 スミソの意志の揺らぎ
スミソは無表情だが、その意志の揺らぎは痛いほどわかる。
イコマの想像が正しければ。
「思うんだが……」
スミソは言い淀んでいるが、助け舟の出しようがない。
チョットマはどんな反応をするだろう。
そう思うと、心が痛い。
「マスカレードで会ったという、あの……、EF16211892という男。コンピュータが作り出したキャストではなく、本物の人間じゃないかな……なんて思うんだけど……」
チョットマが不安そうに顔を上げた。
誰の顔にも、「どうしてそう思うのか」と書いてあった。
「……」
スミソは自分の想像を場に投げるだけ投げて、黙り込んでしまった。
イコマは思った。
スミソはこの後、何を期待しているのか。
いや、何も期待などしていないだろう。
固まってしまった状況を進展させようとしているだけなのだろう。
あくまで冷徹に。
私情を交えず。
チョットマはあれから聞き耳頭巾のショールを手放さない。
今も、膝に掛けている。
それを握る手が小さく震えていた。
部屋の沈黙がスミソを苦しめている。
イコマは自分から話すことにした。
「実は、僕もそう思う」
チョットマと目が合った。
動きにくい顔の筋肉を思い切り使って笑いかけた。
さらに言えば、などと、決定的なことを言う前に間をとるようなことはしない。
「プリブだったのではないか」
「えっ!」




