93 よりによって、スミソとは
「拉致の後、すぐに姿が消えたという。これは何を意味するのか」
犯人の目的地が、拉致現場のすぐ近くだったと考えられなくはないが、そんなに簡単なことなら、警察はすでに突き止めているだろう。
あり得る解の、ひとつ目。
宇宙船のバックヤードに逃げ込んだ。
「バックヤードは当然ながら、厳しく管理されている。エンジン部やエネルギー庫や広大な倉庫やデータセンター、そして着陸船などの格納庫。心臓部ともいえる極めて重要な施設に通じるルートだから」
街の中には、そこに出入りするドアがたくさん隠されているそうだが、もちろん乗組員しか利用できないし、厳重に管理されている。
きっと、幾重にもバリヤーが張り巡らされていることだろう。
「キョー・マチボリーによれば、その時間帯に、街に出入りした乗組員はいない」
つまり、乗組員は犯人ではないし、同時にバックヤードが逃走経路として使われた、ないしはそこにプリブが連れ込まれたとは考えにくい、ということになる。
「ただし、キョー・マチボリーが嘘を言っている、あるいは管理がお粗末でなければの話」
次に、街とバックヤードの緩衝地帯ともいうべき、あの通路を通ってどこかに姿を消したという考え。
先日、救急センターに行ったときに通ったあの通路。
「ヴェインロードと呼ばれている。沿道には、公的な機関が軒を連ねているらしい。特に、機密保持が必要な施設が」
従って、出入りは監視されている。
通過した人物のデータをチェックし保管しているのは、やはりキョー・マチボリー。
そして最後に。
これは最近知ったことだが、地下の交通手段であるフライトという円盤に乗ったという考え。
しかしあの円盤は、いわば緊急車としての扱いで、行政マンの中で使用許可のある者、あるいは警察、治安、軍など、公的な場合しか使うことができない。宇宙船のクルーも使えないそうだ。
あえて、キョー・マチボリーが怪しいとは言わなかった。
そもそも、キョー・マチボリーがプリブとどんな接点があって、どんな用があるというのだ。
ただ、そこに何らかのヒントがある、とは感じていた。
スゥから仕入れた知識を次々に披露していくが、その情報源について質問を口にする者はいない。
最も口を挟みそうなライラ。
スゥがユウと同期していたことを感づいたはずだが、黙って、時々スゥの顔を見るだけだ。
「ここまで、質問は?」
イコマは、誰かが話し出すのを持った。
誰も、疑問を持たなかったのであれば、自分の話し方が拙かったということ。
ひとつの重要な推論をまだ話していない。
話すタイミングが難しかった。
話す必要があるのかどうかも怪しい。
誰かが気付いてくれれば話しやすいのに、と他人頼みの気持ちがあった。
スミソの手が挙がった。
よりによって、スミソとは。
いや、これでいいのかもしれない。




