88 お前の思い付きで、この私が動くと思うのか!
「まだなんとなくだけど、キョー・マチボリーが絡んでいるような気がするのね。ママはどう思う?」
「なぜだ」
「ママは、キョー・マチボリーと仲良しだから、聞いてみてくれない? こちらから公式照会を出すより、効果的だと思うから」
「どういうことだ。キョー・マチボリーとプリブという男、どういう関係がある」
「だから、それはまだ分からないわよ。言ったじゃない、なんとなくだって」
「お前の思い付きで、この私が動くと思うのか!」
「けち」
思い付きだとは言ったが、イッジにはそれなりに目算があるようだ。
「きっとそのうち、行ってもらうことになると思うわよ」
アイーナは返事をしなかった。
ただ、少しはその気になったのか、唸り声をあげた。
「最後に、例の未知の組織。これは治安省の管轄ね。癪だけど」
イッジがチラチラとケーキに目をやりながら話している。
欲しいのかと思ったら、違った。
「ママ、いい加減にその毒物の山、執務室に置くの、やめたら? 身体に悪いよ」
「ふん、お前に言われたかないね。自分の体のことは自分で管理できる」
「でもさあ」
その時初めて、チョットマはイッジと一瞬、目があった。
チョットマは、押さえつけられた腿に圧力を感じながら会釈した。
「そちらのお嬢さんにも、勧めたんでしょ」
とは言うが、会釈を返そうとはせず、次の話に入っていった。
「ヴィーナスの件だけど、彼女の死因が解析できたわ」
「それは、私が聞かなくちゃいけないことじゃない!」
「そう?」
「純粋に警察の仕事だ!」
イッジは半ばバカにしたように、
「だって、ママのお友達でしょ」と口元を歪めた。
「市民代表議員幹事の一人、ママの懐刀であって、中央議会議長の座に最も近い位置にいる敏腕。将来は……」
「うるさい! その話はするな!」
「そういう間柄だから、立ち入るのを避けたいのは分かるけど、死因だけでも聞いたら?」
返事を待たずに、イッジがまくし立てた。
「死因はソウルハンドによるもの」
アイーナが驚きの声を上げた。
「なんだって!」
「そう、ソウルハンドよ。間違いない」
「ありえない!」
「だよね。この船の中で、そんな死体を見ることになるとはね」
アイーナが怒声をあげた。
「報告は以上か!」
「以上です!」
ふざけて口真似をするイッジの目に、チョットマはちらりと感情が見えたような気がした。
それは、憐れみ、という類の感情のように感じられた。
「では、出て行け! 自分の仕事に戻れ! そして、部下に発破をかけろ! 直ちにプリブを見つけ出せ!」
「かしこまりました!」
遂に、チョットマがイッジに紹介されることはなかった。




