82 可愛いお口が寂しがってる
教祖が死んだ。
実際は殺されたんだけどね。
そこから教団は瓦解していった。
教団が倒れ、後はろくでもないやつが統治を引き継いでいった。
首相とか大統領とか名乗るいろんな連中が、入れ代わり立ち代わり、人々をまとめようとした。
しかし、元々、宗教に狂った連中の寄せ集め。
神なんてものを信じて、親も子も捨て、恋人も捨て、地球という故郷まで捨ててきた連中なんだよ。
単に舞い上がっていただけの連中。
おバカにも、教祖とやらの口車にやすやすとのせられてしまった連中。
祈りなんて言って、トランス状態の快感に酔ってただけの連中なんだよ。
その時に少々高い地位にいたとか、金を持っていたとか、腕力があったとか、人当たりが良かったとか、運が良かったとか、口が立ったとか、そんな理由で社会を統べていけるはずがない。
するとどうなる?
そう、私達の社会は、たちまち立ち行かなくなったのさ。
差し迫った危機は飢餓だったね。
船団のエネルギー備蓄は充分にある。しかし、それをうまく引き出し、コントロールし、有効に使う。
これができない。
そのうち、宇宙船も、街も、生産設備も何もかもが老朽化し、経済も文化もすべてが朽ちていった。
なにもかも、お先真っ暗。
社会は荒れたさ。
大勢の市民が飢えに倒れた。
あるいは殺された。
あるいは得体のしれない病気が蔓延した。
袋の鼠みたいに逃げ場のない宇宙船の中で、人々は明日の何をも期待できない年月を送った。
よくもったものさ。
百年もの間。
その間、宇宙船は旅を続けた。
もちろん、地球に帰るために。
絶望だけを乗せた旅。
崩れ落ちようとしている宇宙船に、かつてのような航法はとれない。
図体が持たないのさ。
低速安全航行。
地球に帰れる見込みなんて、ない。
光の速度で飛んだとしても、千年はかかる距離。
それを、音速程度で飛ぶんじゃね。
望郷の念は募れど、口にすることさえ憚られる、そんな状態だった。
ほらほら、可愛いお口が寂しがってるよ。
そうだ。
アイスクリームを出してあげよう。とっておきのがあるんだ。
好きだろ?
え、知らない?
なんてまあ、可哀想に。
さあ、いくらでもあるからね。
アイーナは鍋一杯ほどのアイスクリームを抱えて、それでも話は止まらない。




