8 夜に出歩くな
フッ。
肩の力を抜いた。
人影を見て、少しほっとした面はある。
ここは巨大な宇宙船の中の街。
魑魅魍魎が行きかう街だとは思っていないが、夜に出歩くなというサワンドーレの言葉が気にはなりかけていた。
人影は女性だったような気がする。武装もしていなかった。
パリサイドかどうかまではわからない。
ただ、そんな誰かが歩いている街なら、切迫した危険はないのだろう。
しかしもう、部屋に帰った方がいい。
アヤの能力をもってすれば、しかも聞き耳頭巾を使ったとなれば、声を聞き分けられたことだろう。
もし不調だったとしても、今夜のところは諦めたはず。
いつもうまくいくわけではないことは、先刻承知なのだから。
アヤが聞いたという声。
むろん、ンドペキには何も聞こえなかった。
アヤは、人の声ではないような、と表現した。
とすれば、木の声や鳥の声といった種類の声だろうか。
ここには木も生えていないし、鳥も棲んでいない。石ころさえ転がっていないのだから、そう言ったのだろうか。
そんなことを考えながら、自分たちの住む街区に戻り始めた。
街路や街並みに、見るべきものはない。しかも、深夜。
照明は暗く落とされ、チリチリした光が浮遊しているほかは、昼間とさして変わりはない。
おのずと歩調は速くなるが、一時間余りもあれば帰り着くだろう。
アヤはもう部屋に帰っているはず。
空を見上げた。
母船の天井を、空と呼ぶなら。
それほど暗く、突き抜けるような高さが感じられた。
もうすぐ夜が明ける。
夜明けは午前五時と決まっている。
東雲の刻、空は藍色を帯び、茜色に染まっていく。
そういえば、なんとか祭といったな……。




