74 赤いリボンのお正月
ハッピー・ニュー・イヤー。
講義の前に、元旦の祝祭でも覗いていこうということになった。
気分転換も必要。
街の中央広場では持ち寄りバザーが開かれていた。
パリサイド到着を前に、不用品を処分しておこうということらしい。
求めたい人がいるかどうか怪しいものばかりだが、それなりに人出はある。
いたるところに赤いリボンがはためいている。
パリサイドの元旦の飾りつけ、これが定番だという。
歌や寸劇のパフォーマンスも行われるらしい。
「初めてやな」
「なにが?」
「パリサイドの連中、こんなにいっぺんに見るのん」
「そういや、そうやな」
昨夜、家族だけでいるときは、大阪弁もいいじゃないか、ということになった。
イコマとンドペキ、スゥの三人連れである。
「シリー川の会談の時以来やな」
パリサイド達は、そこかしこにシートを敷いて、いろいろな品を並べている。
品数の少ない者は、手に持って見せていたりしている。
昨日、アヤは例によって、全くの無反応を決め込んでいた。
ンドペキ曰く、
「子供の時の話なんか、アヤちゃん、嫌がるんと違うか」
「……ん、そうやな」
「大人になってから、自分の小さい時のことなんか親から聞きたいか? 嬉しい奴おらんやろ」
「そうなんやろけど」
実際、イコマにとってアヤとの思い出は、しかも楽しい思い出となると、どうしても子供の頃に遡ってしまう。
イコマがアギとなってからは、一緒に食事をすることさえなかったのだから。
しかも再会後は、事件に次ぐ事件に振り回され、楽しい思い出を作ることなど思いもしなかった。
「最近のこととなると、レイチェルの出番なんやけどな」
そのレイチェルも何度となく足を運んでくれているが、やはりアヤの記憶は戻らない。
溜息ばかりが出る。
「それはそうと、昨日チョットマが言ってたステージフォーってのは、どう思う?」
昨夜、ユウを除いた四人で話し合ったこと。
ほとんどがチョットマの報告だったが、プリブの行方を追う糸口やアヤの記憶を戻すきっかけとなる情報はなかった。
いずれもパリサイドの世界を垣間見るという類のことが中心。
それでも、イコマはありがたいと思った。
ここは知らない社会。
プリブの件もアヤの件も、謎というものではないかもしれないが、ひとつひとつ情報を積み上げていくしか解決の道はない。
「ステージフォーねえ」
治安省のミタカライネン長官から聞いてきた話。
宗教団体らしい活動をしているというが、パリサイド政府も実態はほとんど掴んでいないという。
ミタカライネンによれば、最近になって台頭してきた団体で、かなり危険な思想を持つらしい。
ちょっとした噂でも耳にしたら教えて欲しい、そう言われたと、チョットマは少し自慢げな顔をしたものだ。
「この船にもおるらしいな」
「排除できんかったんかいな」
「そりゃ、団体の規模もわからんし、首謀者さえ特定できてないんや。防ぎようがなかったんやろ」
「いつまでたっても、人間の心なんて、弱いもんやな」
「そう。そんなもんに頼ってしまう」
「宗教かテロか、新手の過激派か知らんけど、人に迷惑かけんといて欲しいよな」




