73 レイチェルの意志
最後尾のスジーウォンとレイチェルが話している。
「市長の方はいいのか?」
スジーウォンはアイーナの方を、つまりプリブの件を優先してくれとは言わなかったが、レイチェルにも言いたいことは伝わったろう。
しかしレイチェルは、こう言った。
「ンドペキの時も、チョットマの時も、私は駆けつけられなかった」
「いいよ、そんなこと」と、前を行くチョットマが笑う。
レイチェルはごめんね、と返し、そして、
「二人よりアヤちゃんの方が大事っていう意味じゃないけど、アヤちゃんは私にとって、ただひとりの親友」
きっぱりと言った。
レイチェルの意志はそれで十分だった。
バルトアベニューに向かうつもりだ。
「彼女を助けることができるのは、私かもしれない。それなら、私、行かなくちゃ」
記憶を無くしたかもしれないアヤ。
それを取り戻させることができるのは、確かにレイチェルかもしれない。
エーエージーエスで死にかけた二人。
あの事件で、アヤは片足を失い、レイチェルは顔面に大怪我を負った。
アヤにとって、忘れようのない悲劇。
レイチェルが話しかければ、アヤの記憶も……。
が、アイーナ市長とのアポイントメントを反故にすることになる。
結果として、プリブの捜索はますます難航するかもしれない。
しかし、スジーウォンは何も言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
それほど、アヤの友であり、仲間であり、長官であるレイチェルの声は、毅然として有無を言わさぬ響きがあった。
イコマも黙っていた。
これは、レイチェルとスジーウォンの間で了解すべきこと。
えっ。
一歩前を行く、チョットマが立ち止った。




