表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/200

73 ちくしょう。どいつもこいつも

 街に降りてチョットマと別れ、イコマはバルトアベニューに向かった。

 この時間帯はンドペキがアヤに話しかける順番だが、部屋に帰ってしまう気にはなれない。

 返事をしてくれなくても、そばにいなければ、という気持ちが常にある。



 結局、アヤの名がパリサイドへの着陸船の名簿にあるかどうか、分からずじまいだった。

 名があることでひとまずは安心したい、そんな親心が分からないのか、何度声を枯らそうとも、キョー・マチボリーはあれから一言も発しなかった。

 今頃、アイーナとふたりになって、楽しくお喋りしているのかもしれないが。

 くそ、とイコマは舌打ちし、短足を急がせた。


 アヤの部屋まで、もう少し。




「どうした」

 と、ンドペキが追いついてきた。

「俺の番だが、一緒に行くのか?」

「ああ、行こう。歩きながら話そう」



 イコマは、キョー・マチボリーの部屋で見聞きしたことを話した。

 だが、プリブの名前が名簿にないと聞いても、ンドペキは顔色一つ変えない。

 ある程度は覚悟しているのかもしれない。

 あるいは、断片的な情報に一喜一憂するものか、という意思なのかもしれない。



「で、パリサイドに着いてから、我々はどうなることになった?」

「アイーナが言うに、着陸後一年程度は缶詰にされるらしい」

「まさか、あの身体を授与される? じゃないだろうな」

「違う。星の環境に順応するため。一年は最低の期間らしい」



 世界の見かけは地球と似通っているが、大気や重力や宇宙線の種類、時間の観念や光など、地球上で当然と思っているあらゆるものが異なっているという。


「その間、地球人類の代表を決め、どのようにパリサイドで暮らしていくのかを決めろ。そういうことだった」

「制約はあるのか? なにか」

「アイーナは、地球から来た人のことはすべて、自分たちで決めたらいい。そう言っていた」

「路頭に迷うことになるぞ。収入もなく、知らない街に放り出されたら。なにしろ、誰もが命からがら逃げてきた。着の身着のまま、一文無しだ」

「一年の間に、自分で何とかしろ、ということだな。その間、必要なものは支給されるらしい」



「一年間か……。本当にそれだけか?」

「疑り深いな」

「当たり前だろ」

「実はな」



 ンドペキが疑ったとおり、その間に選別作業が行われるという。


「その選別というのが、何なのか。教えてくれなかった」

「気味の悪い話だな」

「ただ、自分達もその選別を受けているし、あそこで暮らしていくために不可欠なもの。アイーナはあっさりそう言った」


 そのときのニュアンスでは、問い質したこちら側の反応に驚いた風だった。

 何でもない普通のことなのに、というように。

 ただアイーナは、「このことは一般市民には伏せておくように」とも言った。

 余計な不安を与えても仕方ないから、と。


「イコマは一般市民じゃないってことか」

「アイーナの表現を使えば、レイチェルが信頼する人々の内のひとり、ってことになるんだろう」

「ふうん」

「あるいはチョットマのパパ」

「ま、いい。分からないことだらけだが、そのうち見えてくる、ってことだな」




 そんなことを話していると、後ろから声を掛けられた。


「あの、もし」

 極端に背丈の小さいパリサイド。

 イコマと同様、ヌード姿。


「ああん?」

 不機嫌そうに立ち止まったンドペキに、そのパリサイドは丁寧に頭を下げた。



「ンドペキさんでしょうか?」

「ん?」

「フイグナーと申します。いつぞやは失礼なことをしました」

 と、また頭を下げる。



 パリサイドらしく無表情だが、その眼にはどこか人を見下しているようなところがある。

 ンドペキが反応しないことを見て、パリサイドはバカにしたような口ぶりで言った。


「ほら、海の中で」

「は?」

「もう忘れましたか。イルカの少年と言えば、どうです?」

「ん? なっ、お前は!」

「ハハ!」



 イコマも思い出した。

 ニューキーツの政府建物に突入したとき、ンドペキの隊が迷い込んだ巨大な部屋。

 そこは出口のない海中。

 バーチャルな海底。

 散々、愚弄した特殊なアギ。


 あいつか!


 こんなやつも、パリサイドに救われたのか。

 こいつら、世を捨てたのではなかったのか。




 フイグナーと名乗ったパリサイドは、まだ小さく声をあげて笑っている。

 あの時のように。



 こいつ、完全に頭がおかしくなっている。

 そう感じて、ンドペキの袖を引いた。

 関わらないでおこう。




 背を向けた後ろから、声が追いかけてきた。

「あれ、もう話は終わりですか。私、昔の名はミズカワヒロシといいますが、もう少しお話が……」


 その名前に引っかかるものがあったが、イコマはンドペキを引っ張るようにその場を離れた。



「ちくしょう。どいつもこいつも」

 そんな言葉が何度も口から出てきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ