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61 波乱の講義

 会場はいつものように、物憂げな雰囲気が漂っていたが、それでも少々熱気が感じられる。

 いよいよ、パリサイドの星に近づいている。

 これまでの講義は、パリサイドの社会で暮らしていく基本的知識を学ぶことが主な内容だった。

 必要なことばかりなのだが、今までは誰の顔にも、知りたいという気持ちがそれほどあるわけではなかった。

 ンドペキとて、同様。

 なんとなく、このまま同じメンバーで暮らしていく、という意識があり、新たな社会に飛び込んでいく実感がなかったのだ。



 ざわついた部屋に入ってきたのは、講師役サワンドーレ。

 いつものようにパリサイドの姿のままだ。


「今までは、生活に必須であるお金や配給など、たちまち必要となる日々のこまごまとしたことを語ってきましたが、先ほどアナウンスがあった通り、いよいよパリサイドへ到着しますので、今日はその準備についても言及します」


 こうして、講義は始まった。




 サンドーレは淡々と、それまでに準備しておくことを話していく。

 紳士然として、分かり良い説明。

 まず、パリサイドの地を踏むための手続き。



 面倒な手続きは不要です。

 すでに皆さんにはIDも付与されていますし。

 ただ、この船内で結婚したとか子供が生まれたという人は、若干の手続きがあり、それを説明しますので、講義後に残ってください。


 この宇宙船に移乗された時にお渡ししたペルソナチップ。

 今まで以上に必要となるものですから、必ず身につけておいてください。


 個人的に持ち込みたい荷物のある人、それがたとえ小さなものでも、及びその可能性のある人も、講義後に残ってください。



 一切の市民生活は停止される。

 つまり、金融システム、健康維持システム、情報システムをはじめ、すべての機能が停止するということです。

 部屋に入って、ただ、じっとしているだけです。

 インタフォンさえ鳴らない、とご認識ください。



 外出禁止。

 これは、屋外にいさえしなければよい、ということではありません。

 必ず登録されたご自身の部屋に。


 なお、これまではキョー・マチボリー船長の方針で、各部屋のプライバシーは完全に守られていましたが、外出禁止の発令と同時に、部屋の中も宇宙船の諜報システム及び治安省の監視下に置かれます。

 この点は注意してください。



 さて、皆さんにはチェックインタイム後、ボーディング手続きをしてもらうことになります。

 この講義を聞いておられる皆さんの着陸用シップは、S十六号です。船長はオーシマン。

 記憶にとどめておいてください。


 では、次に重力圏突入後の身体的変化及び注意事項を説明していきます。




 というような説明がサワンドーレの口から発せられる毎に、人々の顔に変化が現れた。

 いよいよ、だ。

 そんな気持ちがいやでも高まり、メモを取る音まで聞こえてきた。




 サワンドーレがパリサイド星到着時の行動について説明を始めた時、部屋の後ろから声が聞こえた。


「いやだ! パリサイドの星なんて! 地球に帰してくれ!」

 高齢女性の声。

「絶対に行かない! 勘弁してくれ! みんなもそうだろ!」

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