6 一組の男女
この母船に移乗してから、講義が続いている。
パリサイドの社会学習。
その講師、ひょろりとした初老の男性、サワンドーレ。
この男がンドペキ達の講師だが、深夜の外出は慎むようにと何度も口していた。
このパリサイドの社会。
地球市民をまだ真に受け入れているわけではない、という空気が時として漂う。
太陽フレアの襲撃から人類を救出するために、という名目さえも怪しい雰囲気さえある。
別の目的があったのではないか、
ただ、サワンドーレの口ぶりには、そんな気配は微塵もない。
しかし、ンドペキはどうしようもない、理由もない苛立ちを覚えていた。
故郷の星で、硬い地面の上で、緑に囲まれて暮らしたい。そう望むパリサイドの一団が地球に帰還した、とユウはいう。
想定以上に太陽フレアの嵐はすさまじく、地表での生存を諦めざるを得なくなった地球人類を、母船に誘ってくれた。
地球で住むという自分たちの夢は捨てて。
荒れ狂った宇宙線の嵐の中でも、パリサイドの肉体は何ともない。
光や宇宙線を己の体内でエネルギに変えることのできるパリサイドなら、むしろ好都合。
彼らなら、地球で住み続けることもできた。フレアの熱さえ制御できれば。
しかし、彼らはそうはしなかった。今のところは。
サワンドーレめ。
アヤの行方と無関係な講師に向かって、ンドペキは再び毒づいた。
いったい、何を考えていやがる。
実は、ンドペキはその男に好感を持っていた。
礼儀正しく博識。穏やかな口調でユーモアを交えながら話すこのパリサイドから、すべてを吸収しなくては、という思いでいた。
少なくとも、つい数時間前までは。
しかし、ンドペキのサワンドーレに対する印象は、一変した。
あの一言を聞いてから。
講義が終わった時、「ある一組の男女を探しているようです」
と、ンドペキだけに聞こえるように囁いたのだ。
「誰が?」
サワンドーレは、痩せた長身を折り曲げるようにして鞄を手にしつつ、「神が」と言ったのである。
その先を聞く気を失った。
そんな因習をまだ持っている人間がいる。これも驚きだったが、パリサイド社会の底に横たわっているドロドロした何か、を感じたのである。
やはり、こいつら、神の国巡礼教団の生き残り。
あのおぞましい思想は死んでいないのか。
関わり合いになりたくない。
立ち去っていくサワンドーレの細い背を見送りながら、ムラムラした怒りが心に灯るのを感じたのだった。




