58 そうでしょ。隊長!
チョットマの病気。
厄介な病いだ。
ユウははっきりとは言わなかったが、いわば、精神を乗っ取られるということではないか。
乗っ取られるとまでいかなくても、歪められてしまう。
そんなウイルスとの戦い。
宇宙にはなにが潜んでいてもおかしくない。人にとっては未知の病原体。
そんな世界に飛び出してきたニューキーツの人々。
今更、強烈に恐ろしいと思った。
パリサイドにはすでにある程度の耐性が備わっているとしても、地球人類は赤ん坊のような無防備を晒している。
チョットマの瞳や唇を見つめながら、イコマは不安を消せないでいた。
と、扉が開き、レイチェルが飛び込んできた。
「チョットマ! 大丈夫? 気分は?」
入ってくるなり、レイチェルはチョットマに覆い被さるようにして抱きしめた。
「ゴメン! 来るのが遅くなって!」
「来てくれて……、あり……がとう……」
まだ流暢に話せないチョットマを、レイチェルはもう一度抱きしめて頬ずりした。
ひとしきりチョットマを励ました後、レイチェルは改まった口調になった。
「スジーウォン、報告が遅くなった」
「あ、それは」と、慌てて止めようとしたが、間に合わない。
レイチェルはその名を口にしてしまっていた。
今のチョットマに聞かせるべきでないもうひとつの名を。
「プリブのことだけど、調べてきたことを」
チョットマの様子に変化が起きた。
「あっ、無理するな」
体を起こそうとしている。
「まだ、横になってて」
チョットマはベッドの上で横向きになり、手をついて体を支えようとしている。
「……手伝って……」
イコマはチョットマを支えながら、
「寝ながらでも話は聞けるだろ」と、寝かしつけようとした。
「……ダメ……、プリブのことだもの」
腕の力を緩めようとしない。
「私は……もう大丈夫」
「でも」
もう大丈夫、と繰り返し、とうとう体を起こしてしまった。
「さあ、レイチェル、話して」
「え、うん」
体を起こしただけでなく、チョットマはベッドの脇に足を下ろし腰掛ける態勢になった。
と同時に、声に力が漲ってくる。
「プリブ、私たちのプリブ。何としてでも取り返さなくちゃ」
チョットマの声に、誰もが、先ほどまでのチョットマとは全く違うことを感じ取っていた。
「そうでしょ。隊長!」
スジーウォンに向き直ったチョットマの瞳には生気が漲っていた。
スジーウォンがチョットマの頬に手を触れた。
「良くなったみたいだね。よかった。そう。私は、仲間をどんなことがあっても取り戻す」
微笑むチョットマ。
「たとえ、パリサイド全員を敵に回すことになっても、でしょ」
「当然。プリブもアヤちゃんも。さ、レイチェル、話して。どうだった?」




