56 嫌な予感
パリサイドの世界では、主にふたつの病があるという。
ひとつはンドペキやスミソが罹ったもの。眠りに落ち、様々な夢を見る。
薬があればたちまち回復するが、放っておくと稀にひと月も眠り続けるという。
回復が早ければ別状はないが、長すぎると精神に異常をきたす場合もあるらしい。
もうひとつは今のチョットマ。
身体が全く制御できなくなり、かすかな意識をかろうじて維持している状態。
「きっと、大丈夫」
ユウが繰り返している。
「大丈夫でなかったら?」
チョットマに聞かせるわけにはいかない。
「心配ないわよ」と、目くばせし、また、チョットマに声をかけた。
「ね、チョットマ、楽しい記憶を呼び出すのよ。それを強く思って。他のことは考えなくていいから、楽しかったことだけを」
イコマはチョットマの眼を食い入るように見ていた。
焦点が定まらない宙に向けた瞳。
いつものように艶やかな輝きを持ってはいるが、時々瞬きするだけで何も捉えていないよう。
イコマは声にならない叫びをあげた。
チョットマ!
チョットマ!
何もしてやれないとは!
代わってやることもできなければ、少しでも楽にしてやることさえできない!
ユウに腕を掴まれた。
黙って、こちらに来いという。
「ンドペキ。チョットマを励ましてあげて」と言い残して、声が届かないところへ。
嫌な予感がした。




