53 最初の一歩はどうするの
もう少しまともなのが。
といっても、奇妙には違いなかったけど。
頭の上からつま先まで、ぼろぼろのローブ姿。ぶかぶかの帽子を目深に被って。
浮浪者。
別に嫌な臭いはしなかったけど。
彼はね。
違った。
まず名乗ったのよ。
「畏れ多くもアラブのプリンセスよ。名乗ることをお許しください。わたくし、EF16211892と名付けられし者、一介の卑しき兵士でございます」
と、パリサイド流の名前。
兵士というには服装が、と思ったけど、ここは仮面舞踏会。
「どうか、暫し、わたくしのお相手を」
継ぎはぎだらけのローブをたくし上げて、きれいな手を差し伸べてきたわ。
私がその手を取ったから、先の二人は出した手の持って行き場に困ってた。
大男なんか、トカゲと握手しようとしてたけど、可哀想に払いのけられちゃって。
「ありがたき幸せ!」
と、ぼろ服は恭しくお辞儀をしたわ。
その拍子に、掛けていたサングラスの奥が見えたの。
パリサイドの眼じゃなかった。私たちと同じ目をしていた。
まあ、きっとあれだけどね。
彼は、ううん、EF16211892と呼ぶべきね、ちゃんと名前を聞いたんだから。
上手に人波をすり抜けて、私をホールの中央まで連れて行ったわ。
本当のど真ん中。
エスコートされて、ホールの主役になった気分。
ときめき?
ちょっと違うけど、胸が高鳴るって、こういうことを言うのね。
EF16211892の手が私の手を優しく包み込んでいる。
もう一方の手が私の腰に回され、私は彼の肩に手を置いて。
シャンデリアが揺れている。
明かりも揺れている。
周りで踊っているたくさんのペアの姿が視界から消えていく。
音楽が降り注ぐ。
胸の高鳴りは止められない。
繋いだ手の温かさ。
彼の漏らす吐息。
私の息遣い。
さあ、最初の一歩はどうするの。




