52 あ、緊張してきた……
「気に入ったよ!」
と、アイーナが優しく声音を変えた。
「かわいこちゃん! こっちにおいで!」
「はい!」
かわいこちゃんと呼ばれて、さすがにのけぞりそうになったが、言われたとおりにクッションに近づいた。
いい香りがますます強くなる。
「さ、ここへお座り」
「ありがとうございます!」
クッションの横に並んで座った。
ソファのスプリングはとても硬く、まるで板の上に座っているようだ。
それでもアイーナが立ち上がると、座面がぽんと跳ね上がった。
「どれがいい? どれでもいいんだよ。いくらでもお食べ」
アイーナが、ピラミッド状のお菓子の数々をプレートごと持ってきた。
「飲むものも用意するわね。なにがいい? なんでも言って」
「あ、はい」
戸惑うチョットマに構うことなく、アイーナは転げるように動き回り、お皿やスプーンやフォーク、手を拭くものなどを出してくる。
大小のクッションが、あちらこちらに吹き飛んだ。
「何してるんだい。早く、言っておくれ。でないと、私もいただけないじゃないか」
「あ、はい。では、お言葉に甘えて……」
「堅苦しく話さなくていいんだよ」
「はい。じゃ、コーヒーを」
コーヒーなど、これまで一度も飲んだことがない。
ニューキーツ時代はもちろん、こちらに来てからも。
でも、あのいい香り。きっと、とても素敵な飲み物に違いないと思っていたのだ。
「はい。じゃ、少し待っててね」
あ、あんなところにドアが。
アイーナがひときわ高く積み上げられたクッションの山を崩すと、別室へのドアが隠れていた。
この調子なら、プリブのことをうまく聞き出せるかもしれない。
しかし、のんきにここでティータイムなどしている場合ではないのだが。
遅ればせながらも、バルトアベニューに向かわねば。
それにしても、この歓待ぶりはなんだろう。
レイチェルの話とかなり様子が違う。
素直に受け取っておいていいのだろうか。
あるいは、まだクローンの出来栄えテスト中?
とすれば、ケーキを美しく食べなければ。
絶対にこぼしちゃいけない。
コーヒーもおいしそうに飲まなくちゃ。
万一、口に合わなくても、そんな素振りは厳禁ね。
チョットマは小さく溜息をついた。
あ、緊張してきた……。
 




