49 プリンシパルポーションの五十九番
隊員達が三々五々、すれ違っていく。
誰もが、寝不足の赤い目をしていた。
スジーウォンは隊長としてねぎらい、ンドペキやイコマは親として彼らに礼を言った。
バルトアベニューには、コリネルスら数人の隊員が所在無げに待っていた。
「アヤちゃんは?」
隊の参謀コリネルスであっても、パリサイドに救出されてからというもの、精彩を欠く。
未知の世界で、彼のクリアな頭脳も雑多なことを吸収するだけで精いっぱいだ。
「自分の部屋に。隊員を三名、同行させている」
オオカミのような風貌のいかつい男、髭もじゃらの巨漢、一級モデルのような美女。
しかも、武装した者もいる。
そんな隊員達に囲まれ、質問攻めにあい、アヤは恐怖を感じたらしい。
ついて来ないででください、と逃げるように去ったという。
「白昼堂々、往来で大勢の兵士が女性を取り囲んでいる図。どうみても通報もの」
「そうだな」
「妙な連中が出動してくる前に、とりあえずは解散ということにした。じゃ、行こうか」
コリネルスに案内されて、一同はアヤの元へ向かった。
アヤはやはり名を変えていた。
フミユ。
もうイコマは愕然とはしなかった。
覚悟していたこと。
重いものを大量に飲み込んで動けなくなったかのように、言い表すことのできない悲しみが胸を支配するのを感じただけだ。
アヤは聞き耳頭巾を持って出かけたことも覚えていない。
それどころか、自分はパリサイドとしてずっとここで暮らしてきたという。
ある会社の事務員として働いているとまで言ったそうだ。
ふと、願った。
今から会う、フミユと名乗る女性が、アヤではないことを。
しかし、大勢の隊員が、それに一時は上官だったコリネルスが見て、そして話までしているのだ。
間違いようはない。
ただ、あのサリの例もある。
あの時、スゥの洞窟で隊の全員が騙されたのだ。
イコマは、人違いという結末に一縷の望みをつないだ。
「プリンシパルポーションの五十九番を買ったそうだ」
アヤは薬を買いに出たところだったらしい。
「聞き出せたのはそれだけ。すまない」
「こちらこそ、すまなかった。連日、疲れたろう。ありがとう」
「いや」
コリネルスが微妙に笑ってみせた。
「いい、運動になった」
地球を出てからというもの、ただの一度も隊としての作戦行動はない。
倦怠感が生まれている中で、隊員達にとってもいい刺激になった。
現に、勇んで完全武装までしてきた隊員もいる。
コリネルスの目はそう言っているのかもしれなかった。
「ほとんどの隊員は休息に回したが、アヤちゃんには精鋭を付けている」
「うむ」
「それにしても、いったい、どうなっているのか、妙な話だ」
「服装は?」
スゥの問いに、コリネルスは首をひねった。
「薄いピンクのシャツ。頭から被るやつ。パンツは濃紺で、履物は、そうだな、白っぽい普段履きの靴だったな」
「そう……」
イコマはあえて、それが出かけた時のアヤの服装なのか、とは聞かなかった。




