47 記憶を無くしたかもしれないアヤ
「バルトアベニュー十七番街!」
ンドペキとスゥが、隊員と共に前方を駆けていく。
イコマは、ユウとその後を急いだ。
チョットマはンドペキと一緒に行きたがったが、スジーウォンが思い留まらせている。
イコマよりさらに後方、スジーウォンとチョットマ、スミソ、そしてレイチェルが追ってくる。しかし歩みはゆっくりだ。もちろんチョットマの身を案じてのことである。
街並みはいつも通り、宇宙船の中とは思えない少々くたびれた風情を見せ、通りを行く人々もどことなくのんびり歩いている。
人らしい顔を持ち服を着ている者もいるが、パリサイドの身体の者が多く、黒い素肌を見せて悠然と歩いている。
イコマも彼らと同様、一糸纏わぬ姿。恥ずかしいという気持ちは薄くなってきたとはいえ、まだ腰の辺りが心もとない。
それにまだ、飛ぶことはおろか、走ることさえままらないのだった。
ンドペキ達の姿はもう見えなくなった。
早くアヤの元へ、と気持ちは焦るが、他のパリサイド同様、のんびり歩くしかなかった。
結局、アヤが自分の名を覚えているのか、という問いには応えてもらえずじまいだった。
アヤがどんな目的で街を歩いていたのかも。
アヤの言う、自分の住まいとは。
そして、行方知れずになってから、どうしていたのかも。
チョットマ達が追いついてきた。
チョットマが一団の先頭を行く。
もうすっかり元気だよ、という足取りで。
もう心配ないとユウが太鼓判を押した。
ウイルスに打ち勝ったのだ。
彼女の気力と意志力がウイルスにまさったのか、それとも彼女の肉体的特徴がウイルスを跳ね返したのか。
それはわからないが、チョットマの様子を見る限り不安な要素はないという。
最後尾のスジーウォンとレイチェルが話している。
「市長の方はいいのか?」
スジーウォンはアイーナの方を、つまりプリブの件を優先してくれとは言わなかったが、レイチェルにも言いたいことは伝わっただろう。
しかしレイチェルは、こう言った。
「ンドペキの時も、チョットマの時も、私は駆けつけられなかった」
「いいよ、そんなこと」と、前を行くチョットマが笑う。
レイチェルはごめんね、と返し、そして、
「二人よりアヤちゃんの方が大事っていう意味じゃないけど、アヤちゃんは私にとって、ただひとりの親友」
きっぱりと言った。
レイチェルの意志はそれで十分だった。
バルトアベニューに向かうつもりだ。
「彼女を助けることができるのは、私かもしれない。それなら、私、行かなくちゃ」
記憶を無くしたかもしれないアヤ。
それを取り戻させることができるのは、確かにレイチェルかもしれない。
エーエージーエスで死にかけた二人。
あの事件で、アヤは片足を失い、レイチェルは顔面に大怪我を負った。
アヤにとって、忘れようのない悲劇。
レイチェルが話しかければ、アヤの記憶も……。
アイーナ市長とのアポイントメントを反故にすることになる。
結果として、プリブの捜索はますます難航するかもしれない。
しかし、スジーウォンは何も言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
それほど、アヤの友であり、仲間であり、長官であるレイチェルの声は、毅然として有無を言わさぬ響きがあった。
イコマも黙っていた。
これは、レイチェルとスジーウォンの間で了解すべきこと。
えっ。
一歩前を行く、チョットマが立ち止った。




