44 どの程度の出来栄えか、見てやる
イコマはアヤのことを思うといてもたってもいられなくなってきた。
探してくれている隊員隊からの報を待つのみというのも辛く、申し訳ない。
プリブと同じように連れ去られたのか。
チョットマと同じようなウイルスに苛まれているのかもしれない。
連れ去られたのなら、プリブの行方を追えばアヤも見つかるだろう。
しかし、ウイルスと闘っているのなら、どこで? 誰と?
ンドペキも同じ気持ちなのだろう。レイチェルの話に倦んで、下を向いている。
チョットマがそれに気づいて、ちらちらと目をやっている。
たくさんの人が入るには狭いンドペキとスゥの部屋は、ただ重苦しいというより、倦怠感と焦りが熱を発しているように蒸し暑くなっていた。
「そろそろ、終わりにしないとね」
レイチェルも場の空気を感じたのだろう。
「それに、もうすぐアイーナが指定した面会時刻。遅れたら、今度こそ大目玉じゃすまないかもしれないしね」
「よろしくお願いします。疲れているのに」
レイチェルの顔にも疲労が見える。
ここ数日の間に、キョー・マチボリー船長、アイーナ市長を皮切りに、軍の総指揮官、警察省長官、治安省長官、市民代表議員数人と会ってきたのだ。
気疲れもしただろうし、アポイントを取るために人伝てに多くの人とコンタクトをとったことだろう。
そしてその間、彼女が日課としている地球人類の各グループ長との面会をこなしているし、不安がっている市民には直接会って励ましたり、助言したりもしているのだ。
「スジーウォン、ありがとう。気にしてくれて。でも、これは私の仕事だから」
気丈に振る舞っているが、かなりこたえたはずだ。今の、丁寧な報告をすることも。
いつの間にか目が充血している。
震えだした指先を、レイチェルはもう一方の手でそっと隠した。
「ごめん、気が利かなくて。うちの隊から誰か、秘書役や使い役を出せばよかったね」
「大丈夫。マリーリがいるから」
アンドロ、マリーリ。
久しぶりに聞く名だ。
地球から離れ、この船に乗船してからもレイチェルのSPとして活動している。
太陽フレアによる混乱の中で姿を消した者、アンドロの次元に残った者が多い中で、マリーリだけはレイチェルと行動を共にしている。
「彼女、元気にしてる?」
「うん。元気よ」
アンドロ次元のエネルギー安定装置カイロスに娘を、いわば生贄として残し、心中には堪え切れない寂しさが沈殿しているだろうが、献身的と言えるほどに職務をこなしている。
ただ職業柄か、あるいはレイチェルの方針か、マリーリの心情がそれを許さないのか、ほとんど表舞台には出てこない。
レイチェルはチョットマに微笑みかけ、ンドペキとは目を合わせ、そしてもう泡の消えたソーダー水を口に含んでから、
「ほかの人の話もあるけど、それは簡単にするわね」
と、早口に話しだした。
「軍の総指揮官、トゥルワドゥルーという男性。ユウの上官にあたるから、人物像はさておき」
と、ここで隊員が飛び込んできた。
「報告します! アヤちゃんを発見!」
全員が飛び上がるように立ち上がった。
「よかった!」
「よし!」
「迎えに!」
「どんな様子?」
「怪我とかしてない?」
「レイチェル、ごめん。話は後でまた」
イコマは胸騒ぎがした。
隊員の顔にも声にも、喜びがなかった。




