36 仮面を被って踊る人々の渦の中で
イコマは館のインフォメーションに向かった。
外観同様、飾り気のない窮屈なホールに、小さなカウンターがひとつ。
この先で繰り広げられるアトラクションの多彩さや華やかさに比べ、入り口やホールや廊下は無機的で極めて簡素。
今日は、客は誰も来やしない、とインフォメーションのパリサイドも目を瞑っていた。
男だろう。
ヒト形に変身せず、アシカのような体形のまま表情のない顔をしている。
「ちょっと、お聞きしたいことがあるのですが」
たいしたことが聞けるとは思っていない。
案内係は、目は開けたものの、にやりともしない。
「先日、ここでヴィーナスという女性が殺されたそうですが」
と、切り出したものの、何をどう聞けばこの男を話題に引き込めるのだろう。
「私もそのとき、あのマスカレードに入っていましてね」
ユウによれば、十二月二十二日の宵の口だったという。
ちょうどその頃、イコマはチョットマと仮面舞踏会の幻影に入り込み、大いに楽しんだのだった。
バーチャル装置は、それぞれの小さなブースごとに幻影を見せる。
しかし、その中に登場する人物はNPC、つまりノンプレイヤーキャラクターだけではない。
装置を楽しむ人々もそこには同時に存在するのだ。
特に、マスカレードのように開始時刻が決まっているメニューの場合、多くの人が共にその舞踏会を楽しむことになる。
殺されたヴィーナスという女性と、仮面を被って踊る人々の渦の中で出会っていたかもしれなかった。
しかし、案内係は表情を変えず、鼻を小さく鳴らしただけ。
殺人事件のことなど、彼の仕事にこれっぽっちも関係しない。当然のことだろう。
「殺されていたという、そのときの状況を知りたいと思いましてね」
なおも食い下がったが、ついに唸り声さえ聞くことはできなかった。




