表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/200

32 最初の一歩はどうするの

 誰もが声をあげて笑った。

 ライラは、手を叩いて囃し立ててくれる。

 チョットマの気分を盛り上げようと。


「で、その可哀想なカエル、どうした? 後で見に行ってやったのか?」

 ンドペキがチョットマの腕をポンポン叩く。

「まだまだ……先があるよ……お話はこれから……が本番……」

 チョットマも少し笑った。



 私達の席の前まで来たけど、パパはカーテンを下ろしてた。

 今の話を教えようかなと思ったけど、時間には限りがあるでしょ。

 仮面舞踏会遊びが何時間くらいあるのか知らなかったし。

 コスチューム選びに、時間掛けすぎちゃったから。


「カエルの話を聞きに、ずいぶんと道草したしね。で、その後は?」


 イコマは、そう言って話の続きを促した。

 実際はもう聞いている話だが。

 チョットマは目を輝かして、また話し出した。



 ホールに降りていくと、すぐさまダンスの申し込みを受けたわ。

 さすが、オペラ座のマスカレードね。

 それも二人同時に。

 お客さんを飽きさせない。


 ひとりは大男で、ものすごい髭を生やして、角の生えた鉄の帽子を被ってた。

 分厚い胸板やブーツには鋲がびっしり並んでいて、とても手を取って一緒に踊れるような相手じゃない、みたいな。

 大げさな剣をガチャつかせて、「お嬢さん、一曲、いかがでしょう」と、手を差し出されても。

 手甲にも棘棘、ついてるし。


 もうひとりは、体型は普通だけど、コスチュームが……。

 まるで緑色の大トカゲ。

 体にフィットしているというか、全身ぴちぴちの。

 どんな素材でできているのかわからないけど、黄色に緑に発光してるの。

 目だけが本物の眼なんだけど、パリサイドの目。さすがに目を合わせるのも恥ずかしい、みたいな。

 同じように「踊りませんか」と言われたけど。



 ここは、断るべきなんだわ。

 マスカレードの頭脳は、もっといい相手を差し出してくれるはず。


 いや、ここでどちらかを選ぶのがシナリオなのかな。

 待てよ。

 こうやって悩んでいる間に、私を巡って決闘でも、なんて考えてみたり。



 という間に、もうひとり、現れたの。

 もう少しまともなのが。

 といっても、奇妙には違いなかったけど。

 頭の上からつま先まで、ぼろぼろのローブ姿。ぶかぶかの帽子を目深に被って。

 浮浪者。

 別に嫌な臭いはしなかったけど。



 彼はね。

 まず名乗った。


「畏れ多くもアラブのプリンセスよ。名乗ることをお許しください。わたくし、EF16211892と名付けられし者、一介の卑しき兵士でございます」

 と、パリサイド流の名前。

 兵士というには服装が、と思ったけど、ここは仮面舞踏会。


「どうか、暫し、わたくしのお相手を」


 継ぎはぎだらけのローブをたくし上げて、きれいな手を差し伸べてきたわ。

 私がその手を取ったから、先の二人は出した手の持って行き場に困ってた。

 大男なんか、トカゲと握手しようとしてたけど、可哀想に払いのけられちゃって。


「ありがたき幸せ!」

 と、ぼろ服は恭しくお辞儀をしたわ。

 その拍子に、掛けていたサングラスの奥が見えたの。

 パリサイドの眼じゃなかった。私たちと同じ目をしていた。

 まあ、きっとあれだけどね。



 彼は、ううん、EF16211892と呼ぶべきね、ちゃんと名前を聞いたんだから。

 上手に人波をすり抜けて、私をホールの中央まで連れて行ったわ。

 本当のど真ん中。

 エスコートされて、ホールの主役になった気分。


 ときめき?


 ちょっと違うけど、胸が高鳴るって、こういうことを言うのね。

 EF16211892の手が私の手を優しく包み込んでいる。

 もう一方の手が私の腰に回され、私は彼の肩に手を置いて。


 シャンデリアが揺れている。

 明かりも揺れている。

 周りで踊っているペア達の姿が視界から消えていく。



 音楽が降り注ぐ。


 胸の高鳴りは止められない。


 繋いだ手の温かさ。


 彼の漏らす吐息。


 私の息遣い。



 さあ、最初の一歩はどうするの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ