310 この石はきっと、ライラ自身
チョットマの目が潤んでいた。
その眼を拭って、聞いてくる。
「ねえ、パパ。それで、ライラおばあさんは? 死んだの?」
「ああ。死んだと思うよ」
宿命とか運命とか、最も嫌いな言葉だったが、ここで他にいい言葉は思い浮かばない。
「それが彼女の定めだったんだろう」
人類は過去に遡っていくことはできるようになった。
例えば、ベータディメンジョンを経由して。
しかし、未来に行くことはできない。
未来の人類もそうなんだと思う。
彼女は、プリブも、オーエンもホトキンも、片道切符しか持っていなかったんだ。
未来の人類を絶滅から救うために、時間を遡り、将来の敵であるロームスを倒す機会を待っていたんだ。
そしてことを成し遂げた後には、自ら消滅する定めだったんじゃないかな。
話は終わりだ。
ポケットから、小さな藍色の石を取り出した。
「宇宙船スミヨシがパリサイドから強引に数光年先にスキップしたとき。これは、僕のすぐ横に落ちていた石。明らかに人工的に作られた石」
グラン・パラディーゾが暴発し、ベータディメンジョンのエネルギーがほとばしるまさしくその時、僕はライラのすぐ後ろに立っていた。
ライラは、こう呟いていた。
これで奴は滅びる。
もう未来永劫、人類を襲うことはない……。助かった……。
長かった……。長い旅だった……。
私の使命も、これで……。
さあ、オーエン。私もひと思いにやっておくれ……。
「僕は、この石はライラだと思う」
形見じゃない。きっとライラ自身……。
僕はこれを握りしめて、今までのことが何だったのかを考えてきた。
この石が、ライラが、何かを教えてくれたような気がしたし、そうでないような気もした。
いずれにしろ、捨てられる代物じゃない。
もしこれがライラだったら、僕が持っているより、もっとふさわしい人がいる。
今、その人に渡したいと思う。
長官レイチェル。
スゥ。サキュバスの庭の女帝ライラの友人であり弟子でありライバル。
アヤ。ライラがこよなく心を寄せた聞き耳頭巾の持ち主。
そして、可愛がってもらったチョットマ。
「さあ、どうするか、四人で話し合って」
レイチェルは自分にその資格はないと言った。
スゥやチョットマが涙を見せる中、ライラの石はアヤが預かることになった。
きっと聞き耳頭巾がライラを慰めてくれるだろうからという理由で。




