31 チョットマさま~、ご来ぃ着ぅ~~!
「おー! ここかー!」
チョットマが喜びの雄たけびを上げた。
街頭には着飾った人々が行きかい、賑やかな音楽が聞こえてくる。
「うわ! うわー! あれ!」
二頭立ての立派な馬車が、何台も通り過ぎていく。
どこか中世ヨーロッパの街の目抜き通り。
石畳に街灯の黄色い光が落ち、満天の星座。
あたたかい薫風が頬に心地よい。
遠く、雪を被った山脈が暗い空にシルエットだけを見せていた。
「ここだな」
馬車が向かう方に街路を歩くと、高い鉄製のフェンスがびっしり取り巻いた広い敷地があった。
美しい、手入れのいき届いた青々とした芝生。
普段ならきっと衛兵などが歩き回っているのだろう。
今夜は舞踏会。
門は大きく開け放たれ、いたるところに盛大なかがり火が踊っていた。
「イコマさま~! チョットマさま~、ご来ぃ着ぅ~~!」
大声で呼ばわれて、ふたりはすんでのところで石畳に躓きそうになった。
「こちらの馬車をご使用くださいませ!」
きらびやかな衣装の案内人が恭しく礼をしてくれる。
漆黒のマントを纏った御者が、ふたりの脇に黒塗りの馬車をぴたりとつけてくれた。
その車体には、金色の獅子のご紋が描かれてあった。
「すごい……」
馬車に揺られて、チョットマの口から出てきた言葉はただそれだけ。
おのぼりさんよろしく、目を見開いてキョロキョロしては、馬のいななきにビクリとしていた。
しかし、そんな一言では表しきれない光景が、宮殿の中に待ち受けていたのだった。




