31 ひとりじゃ怖くて行けないんだ!
「おいおい、チョットマ、それって楽しい話?」
ンドペキが思わず口を挟んでいる。
「楽しい話って、ユウが言ってただろ」
チョットマは今度ははっきりと笑った。
「ンドペキ……、大丈夫……。あれもこれも……楽しい思い出だから……」
カーテンから顔を覗かせた者。
それはそれは、小さな男性だった。
えっと、男だと思う。
羽根つき帽を被った、カ、エ、ル。
小さな剣を腰に付け、兵隊さんの制服を着て。
カエルって、実際は見たことないけど、きっと。
「カエル……」
ンドペキが唸った。
「そうよ……、巨大ガエル……。茶色の……。でも……」
どう見ても、人じゃない。
仮装でこんな小さな体になるわけない。
きっとこれはマスカレードのいたずらなんだ、と思った。
でね、カエルが言うのよ。
「旅人よ、この先に行こうってのかい」
その声が何ともかわいらしかった。
ついつい私、先には何があるのかって聞いてしまった。
「勇気ある娘ごよ。この先、気の遠くなるほど登りつめた、またその先には、陽の沈む国への道が続いている」
帰ってきた者はいない、なんて言うのかな、と思ったら、違ったの。
「陽の沈む国、すなわち全ての望みが叶う国」
なんて言うのよ。
「私はその案内をする者」
「は?」
「ただし、」
「ただし?」
「私が案内するのは選ばれし者のみ。私の出す試練を乗り越えた者だけが」
「は? どんな?」
楽しさではち切れそうなときだったから、カエルの相手をするのも楽しくなってた。
音楽も聞こえている。おいしそうな匂いもしてくる。
階段を登って行こうとは思わなかったけど、もうすこしカエルの話を聞こうかなって。
どんな楽しい、というか、面白そうな試練を出すのか、興味あったし。
「勇気あるアラビアの姫君よ。では、試練を与えよう」
「ちょい待ち。試練をこなせなかったときはどうなるの?」
「聡明なる姫よ。私が出す試練を乗り越えられなかった者は」
「者は?」
カエルは勿体つけて、でも機敏に剣を抜いた。
「この剣がその胸元へと赴く」と、突きつけてくる。
「じゃ、やめときます」
さすがに私、ばかばかしくなって、一歩下がったわ。
「賢明なる太陽の子よ。試練を受けぬのか」
「やめときますって」
急にカエルは気弱な声を出して、詰め寄ってきた。
「ねえ、娘さん。試練を聞くだけ、というのもありだけど」
「じゃ、聞くだけね」
またカエルはふんぞり返って、ひとつ咳払いまでした。
「うむ。では試練を授けよう。よいか」
「どうぞ。でも、聞くだけよ。授かるんじゃなく」
「うむ。コホン。ここから十三個目の席にいる者と、ホールに赴き、一曲丸ごとダンスをしてくるのだ」
十三個め?
覚えていない。
でも、きっとろくな奴じゃない。
「ふうん。簡単な試練ね」
「おお! 受けるのか」
「するわけないじゃない。さよなら!」
一目散に、もと来た道を戻ったわ。
後ろから声が追いかけてきた。
「ちょっと待ってくれ! いや、誰とでもいい! 誰でもいいから一曲、踊ったらここへ戻ってきてくれ!」
「いやよ!」
「俺を上へ連れて行ってくれ! ひとりじゃ怖くて行けないんだ!」




