3 声が聞こえる
ンドペキは気が気でなかった。
スジーウォンが召集した会議に、娘のアヤの姿がなかった。
アヤは隊員ではないが、行き掛かり上、会議には参加し、任務も与えられる。
いったい、どこへ。
プリブの連行が、万一、東部方面攻撃隊へのなんらかの攻撃であれば、アヤに危害が及ぶことも想定に入れておかねばならない。
確か、このあたり……。
数日前、スミヨシの内部、つまり母船内の「街」を見て回っていた時、アヤが急に立ち止まり、「声が聞こえる」と言ったのである。
「なにを言ってるのか、わからない……。でも、……」
人の声じゃないみたい……。
アヤは今日になって、聞き耳頭巾を持ち出し、確かめてくると言い出したのだ。
ンドペキは辺りを見回した。
母船は巨大で、どこまで行っても同じような道が続いている。
大通りといえる広い回廊があるかと思えば、路地裏のような狭い通路もある。
いたるところに扉があり、そこは誰かの船室であったり、何らかの店であったり、公的な施設であったりする。
扉の横に掲げられた表札を見れば、その部屋が何なのか、一目瞭然。
白銀色の壁が延々と続く世界だが、迷うことはない。
街は整然とし、街路名を記す明確なサインが随所に設置されている。
「リバイヤサン広場……。いないか……」
オーシャンアベニューとパシフィックアベニューが交差する、ちょっとした広場に立っていた。
深夜三時。
人の姿はない。
常夜灯がコーラルピンク色の樹脂製タイルの床を照らし、黄色い光が舗装の上に光の輪を広げているだけだった。
「アヤ……」
口から出た呟きが、暗がりに消えていく。
武装してこなかったことを悔やんでいた。
ヘッダーを被っておれば、少なくとも夜目は利くし、熱センサーもかなり遠くまで飛ばせる。
「くそ」
ただ、通信手段はまだ与えられていない。
ヘッダーの通信機能もここでは役に立たない。
サワンドーレのやつ……。