292 パリサイドの姿をしている者はいない
もうパリサイドの姿をしている者はいない。
ユウは昔のユウの姿。
イコマは誰か分からないが、見知らぬ男の姿になっていた。
スミソに至っては、元のスミソには似ても似つかぬ容姿をしていた。
女性……。
ユウのように生き延びてきた者は本来の自分の容姿を維持しているが、新たにパリサイドとなった者には、いわばかつての神の国巡礼教団の亡くなった者の生まれ変わりとなっている。
もちろん、その人ではなく、肉体の表面的な構成要素を引き継いだのだった。
アングレーヌはすでにサリの容姿を取っていたからなのだろう。その姿のままだった。
パリサイドの体を得たアギにも同じことが言える。
誰か見知らぬ故人の体。
イコマは、がっしりした陽に焼けた人物。
青年の体躯を得た。
目つきの柔和な面長の顏にスキンヘッド。西洋人の風貌。
どの時代でも、男前、の範疇に入るだろう。
外観は全く変ってしまったけど、中身は変わらないからね、とチョットマには言いつつ、なんとなく、うれしかったものだ。
あのパリサイドの身体。
ロームス、あるいはチョットマにフロッグと名付けられ、神として崇められた宇宙生物によって、そのコントロール下に置くために与えられたもの。
ロームスが消滅した今、その呪縛から解き放たれ、まさに「自分」を取り戻したのである。
以前、ユウは「呪われた体」と表現した。
呪いは解けた、ということ、なのだろう。
ただ、もう宇宙空間を飛び回ることはできない。
宇宙線をエネルギーに変えることもできない。
水中を自由に泳ぎ回ることもできない。
他人の顔を身に纏うこともできない。
再生カプセルを使って生き返ることもできない。
大西洋の海の底とはいえ、地球に帰還した今、そのことを惜しむ声はない。
たとえ、再びあの体に身を変えることができると差し出されても。
実際は、自分の意志でまたあの体に戻ることができる者もいる。ただ、一時的であれ、そうする者は多くない。




