25 聞きたくない。そんな繰言
「ねえ、スジーウォン」
返事はくれない。
「おかしいと思うでしょ。プリブ、ンドペキ、スミソって、それって、私がなにか……」
最後まで言わせてくれない。
「変なことを考えるんじゃない」
「でも」
「誰が言ったんだ? おまえのこと」
「ううん。誰も」
「だったら、そんなばかなことを考えるな」
スジーウォンの顔が初めてこちらを向いた。
「ははあ。さては、あのことをまだ気にしてるんだな」
あのこととは。
それはあるかもしれない。あれからまだ、ほんの数ヶ月。
自分の考えの至らなさで、三名もの隊員を死なせてしまったこと。
「私があの霧の中に突っ込んで行ったとしても、おまえほど上手くやれなかった」
返す言葉がない。
しかし、チョットマは思う。
「私、意識しないで、とんでもないことをしでかしてしまったとか……」
つい最近まで、自分がクローンだということさえ、知らなかったほどだから。
スジーウォンは天を仰いで、やれやれという顔を見せたが、すぐに真顔に戻って、
「聞きたくない。そんな繰言」
と、突き放されてしまった。
「訳がわからなくて……」
「くどい。聞きたくないと言ったぞ」
しかし、スジーウォンも悩んでいるようだ。
珍しく、慎重に言葉を選んで、話題を繋いでくれている。
「プリブはともかく、ンドペキとスミソは……」
「……」
「ユウに聞いてみてくれないか。きっとこの母船の、あるいはパリサイドのなんらかの……」
「しきたり?」
「特殊な仕組みが……」
そうかもしれない。
夜に出歩いて。しかも双戯感謝祭の当日に。
でも、それならなぜンドペキとスミソだけが。
「他にも、いるのかな。あんな目にあってる人」
「うーむ。聞いてないが……。ユウは何か、この祭のこと」
「ううん、なにも」
スゥの部屋に戻ると、ライラだけが留守番をしていた。
「やれやれ」と、顔を見るなり首を捻り、肩を回した。
「行っちまったよ。ピンピンしてね」
「よかった!」
ンドペキとスミソは意識を取り戻し、スゥと一緒にアヤを探しに飛び出して行ったという。
「行き違いになるといけないから、留守番しておけって、この年寄りに」
チョットマは胸を撫で下ろした。
プリブとアヤはともかく、ンドペキとスミソ。とりあえず、二人は無事だったというわけだ。
「スゥのお薬が利いたとか?」
「おや? おまえもあの薬、知ってるのか?」
「ううん。スゥが薬を探してくるって、言ってたから」
ライラがニヤリと笑って、
「効いたもなにも」
スゥが持ち帰ったものは、カプセル状のものだったという。
それを開け、中の粉末の匂いを嗅がせただけで、パッチリ目が開いたという。
「あいつ、どこで手に入れたか、言おうとしない」
ライラは不満げだが、治ったのならそれでいい。
「完全に?」
「ああ。ンドペキなんか、くそくそ、俺としたことが! ってわめいてたな」
「スミソは?」
「しきりに面目ないってさ」
ふう!
チョットマは安堵の吐息をついた。
本当にうれしかった。
この時ほど、心の中にンドペキが住んでいると感じたことはなった。
プリブやスミソには悪いが、胸の中、恋という名の部屋に住んでいるのはンドペキだけ。
いつの間にか、眼に涙が溜まっていた。




