200 自分が煌めいているって感じた時の相手
「ねえ! パパ!」
チョットマが部屋に飛び込んできた。
「ほーい、なんだい」
「ママが来て欲しいって。レイチェルに説教するんだって!」
「説教?」
チョットマがユウをママと呼ぶとき、以前は感じた躊躇いはもう全くない。
アヤもそうであったように、チョットマは血の繋がりのない父母に対して濃厚な愛情を持っている。
イコマは、本当の親子でないことが、その愛情をより強くしているのかもしれないと思うことがあった。
互いに意識して愛情を表すことが、大切なのかもしれない、とも思うのだった。
早く早くとチョットマが急き立てている。
「ああ! じれったい!」
「そういうな」
チョットマに腕をとられて、イコマも駆け出した。
「危ないぞ!」
ごつごつした岩肌がむき出しの狭くて暗い通路。
「どこへ?」
「ママの仕事場!」
ユウは、アングレーヌ他数人を部下にして、厚生局長に就任していた。
最近は、市民の精神的な健康管理のシステムを、ローテクながら作り出そうと奮闘している。
「説教って、なんだ?」
「レイチェルが、変なお触れを出すつもりなんだって」
「お触れ?」
「多産社会を目指すんだって。人類は今、人口を増やさないといけないから」
「そりゃいいじゃないか」
「そう? 子供を産める年齢の女性は、誰彼なく寝て、っていうお触れでも?」
「はあ?」
「ダメでしょ」
「アカンに決まっとるやろ! ほんまに! レイチェルは何考えとるんや!」
「だから、早く!」
「そんなことをしたら、レイチェルの部屋の前に、数キロの行列ができるぞ!」
「そこ? ハハ。笑えないね」
「しようのないやつやな!」
レイチェルは本気ではない。
それくらいの意気込みで、みんな早く相手を見つけなさいよ、というわけだ。
もちろんレイチェル自身も含めて。
「ところで、チョットマ」
「なあに」
「スミソとの結婚式、日取りは決まったのか」
「えっと……」
チョットマがぴたりと足を止めた。
「そのうちに……」
そして、長い緑色の髪の先をいじり始めた。
「ん?」
「彼に、彼氏ができてしまって……」
スミソはサブリナの身体を得た。
ライラの娘。
「そうか……」
スミスは、身を引いたのだ。
「パパ、私は……」
チョットマを幸せにできないとでも考えたのだろう。
女と女、だからではない。
チョットマの心の中に住み続けている三人の男。
その中で、自分の立ち位置は、などと考えたのだろう。
他の「男」に走ったと見せているに違いない。
イコマはチョットマを抱き寄せた。
素直に腕の中に納まったチョットマ。
緑色の髪が匂う。
「パパ。ママが言ってた。自分が煌めいてるって感じた時の相手と一緒になりなさいって」
そうか……。
ユウがそんなことを……。
「でね、私はたぶん……」
心配などしていないよ。
きっと君は、最高の恋をして、最高の相手と結ばれて。
「まだ……」
いつか、ンドペキのこともプリブのことも、そしてスミソのことも、桜色の思い出となり……。
目を上げたチョットマ。
「ンドペキが好きなんだと思う」
そう言うなり、腕から逃れ、
「でもさ!」
と、目を煌めかせた。
「新しい彼氏。すぐ見つかると思う」
自信たっぷりに笑った。
「きっと」
おしまい
次編
「ユーペリオン------(少女戦士 歌いながら泣くの段):トゥシー・イントゥ・ザ・ヒューチャー第4話」にお進みくださいませ(Nコード N5935DA)
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。
今回の作品は前2作に比べてサブストーリーがほとんどなく、ストレートに時間軸に沿って物語が進んでいくため、比較的読んでいただきやすかったのでは、と思います。しかしその反面、奥行き感に乏しくなってしまったかもしれません。
物語はまだまだ続いていきます。
この物語に登場したロームスという存在について、まだまだ解明されたとは言えない状態でお話は一旦区切りとさせていただきまして、続きは、続編、長編SFミステリー4部作「トゥシー イントゥザ ヒューチャー」4(最終章)「ユーペリオン」をお楽しみください。
また、ご評価、ご感想をお待ちしております。
最後になりましたが、お読みくださり、まことにありがとうございました。




