199 そこで起きたことを書き記せば
ライラのメッセージの奥にあるものを胸に刻んで、それぞれが新しい暮らしに飛び込んでいった。
死んだ者のことを思い出すことはあっても、もう歩みを止めることはできない。
地上に住むことができない地球で命を繋ぎ、たとえ石器時代同然となった社会基盤ではあっても、人は共に住む。
人口約三千。
小さな社会。
レイチェルが言っている。
愛し合い、喜びに満ちた暮らしを作っていこうと。
その飾り気のない短いメッセージもまた、人々の心に沁み込んでいた。
暗い洞窟の小さな部屋。
避難階から、そして地上から回収してきた有り合わせのもので、とりあえずの生活物資はある。
かろうじて電燈も灯っている。
食糧は乏しいが、水だけは、そして熱というエネルギーだけはふんだんにある。
宇宙線スミヨシを生産基地へと改造するべく、人々は取り組みを始めていた。
イコマはスチール製のデスクに向かって座っていた。
レイチェルの指示で、人類に降りかかった出来事を記録している。
もっと生産的な仕事がしたいと思っていたが、レイチェルのたっての頼みを聞き入れたのだった。
記録といっても、すべてを盛り込むことはできない。
そんな時間もないし、必要もない。
舞台はニューキーツ。
そこで起きたことを書き記せば、人類の社会全体で起きたことは想像がつくだろう。
登場人物は、自分。
そしてンドペキやチョットマ、レイチェル、そしてライラやプリブといった面々。
タイトルはずばり「ニューキーツ」
そこで起きた一つの事件を皮切りに、書き進めていこう。
サリの失踪事件がいいだろう。
ニューキーツ編の次は、「サントノーレ」を予定している。
ニューキーツの街の旧名。地下に埋もれた街。
チョットマが背負った試練を軸に。
そして、次は「パリサイド」。
舞台は宇宙船スミヨシ。
パリサイドの幹部達の登場だ。
彼らの秘密が明かされる。
そして、自分達が今ここにいる、直接的な原因を説明することになるだろう。
ベーターディメンジョンのパキトポーク。
パキトポークが残るならと、行動を共にした数名の隊員たち。
ヌヌロッチやニニも。
そしてアイーナがどうなったのか。
そもそもあの次元の成り立ちに変化はあったのだろうか。
これらは不明のままだ。
未完の記録になりそうだが、致し方ない。




