196 真相の真相 パリサイド襲来
人類の人口はコロニー人口も併せて一億足らず。
対するパリサイドもほぼ同じ。
しかし、兵力は全く比べ物にならなかった。
こちらは相変わらず生身の人間主体だし、人工的な処置を施された者といっても、宇宙空間を自由に飛び回れるわけでもな。月を一気に吹き飛ばす火力さえない。せいぜいヒマラヤ山脈を爆破するのが関の山。
それに対してパリサイドは、かつて会ったJP01やKC36632とは全く違う、さらに進化した体躯を持っていた。
詳しくは説明する必要はないから言わないが、もう人類という言葉さえ使えない異種の生物だった。
彼ら自身、自分が人類だとはもう思っていないだろうよ。
地球に生まれ故郷を持つ生物、なんていう概念もないだろう。
人類のオリジナルな遺伝子なんて、彼らの体にはもう痕跡しか残っていないだろうね。
もう、「人」じゃないさ。
それに、その意識にあるものは「聖戦」のみ。
もちろん、背後にロームス。
いや、言い方を変えようか。
すべてはロームスの意志。
パリサイドは道具だ。
人格なんてものはない。そんな意識もない。
ただの殺戮ロボット。
人類が建設した宇宙コロニーは、ものの見事に数秒で粉砕された。
後には何も残らない。
一瞬のうちにすべては宇宙の塵。数千万の人間も。
瞬く間に、人類に残された拠点は地球のみ。
そもそもロームスの目的は、なんて無意味なことを考えるんじゃないよ。
イコマが考えそうなことだけどね。
それは人間的な発想さ。
目的があって行動がある、なんてことはない。
宇宙生物の行動目的なんて、得体が知れないさ。人間にとっては。
ミジンコは餌をとるのに、何か考えてからその触手を伸ばすわけじゃない。それと同じさ。
ロームスは話が通じる相手じゃなかったのかって?
笑わせるんじゃないよ。
それこそ人間の悪い癖。
狭い自分勝手な了見なんだよ。
あたしゃ、チョットマが奴と話そうとするのを心配で心配で仕方がなかった。
いつ体を乗っ取られるかとね。
折衝なんてできる相手じゃないんだよ。
人間は自分の小ささをもっと思い知らなくちゃいけない。
宇宙空間は無限。宇宙の数も無限。次元の数だって無限にあるんだ。
そこに生息する生物種族なんて、生物と呼べるかどうか分からない連中も含めて、それこそ無限にいるんだ。
とんでもなく進化した連中も多いんだ。
人類なんて、彼らから見れば、ただの無脳生物みたいなものさ。
ちょいとばかり科学技術を持ったからって喜び勇んで宇宙に出かけて行き、メッセージを発信しちまった。
自分の存在を奴らに知らせただけのこと。
蚊が、草陰で露を吸っておればいいものを、のこのこ飛び出して行って、人間の顔の周りを飛び回ったらどうなる。
その蚊がフレンドリーに近づいて来たと思う奴がいるかい。
握手しようとしているのか、血を吸おうとしているのか、考えてみたことはあるかい。
区別ができるかい。
蚊に聞いてみたことはあるかい。
そういうことなんだよ。
人類はロームスの襲来を察知していた。
しかし、防ぐために取れる手段は何もない。
あたしたちの血も肉も、たちまち微粒子レベルに粉砕され、宇宙空間に撒き散らされるのみ。
時間はない。
明日にでも、いや、今日、もしかすると数分後には人類は滅亡する……。
できることは、過去に人を送り込み、できることならロームスを、そしてまだひよっこだったパリサイドを消滅させることだけだったんだ。
オーエンが構築していた過去への移行装置。
これが唯一の頼り。
パリサイドが地球に接近する中、何万人も送る時間の余裕はない。
人選している余裕さえない。
しかも、オーエンの装置はそんなに巨大な口を持っているわけでもない。
ただ手当たり次第に、その口に人を放り込むだけ。
誰もがパリサイドの襲来から逃れようと、その装置に向かって殺到した。
たまたまなんだよ。
あたしは装置のすぐ近くにいた。
ある会社の配達員として、事務用品を届けに行ってたのさ。
あたしは飛び込んだ。




