189 真相5 奈津、NATU、ネイチャー……
やはり長い話になってしまった。
チョットマたちが配った料理は、ほとんど手を付けられないまま、冷めてしまった。
これだけの人数がいて、この話を初めてからワインのボトル一本さえ栓が抜かれていない。
「これは多くの人が聞いた言葉じゃない。ライラが呟いた言葉」
パリサイド星上陸の前夜、僕が事件の拙い解説をした後のことだった。
この言葉を聞いて、僕は違う何かを想像し始めたんだ。
青き衣を着た亡者ども、仮面を投げ捨て、時の神に滅びの光を授けるなり。
「ライラからみれば、またとないタイミングだと思ったに違いない。その夜まさしく僕たちは、事件の謎を解くための話をしていたんだから。悪戦苦闘どころか、全く先の見えない状態だったけどね。ライラは親切にも、ヒントを出してくれていたんだと思う」
もう分かるよね。
「彼女の言葉を列挙してみようか」
掛けておやりな。この子は闘おうとしてるんだよ。やつらと。
「やつら。ということは、ライラは知っていたんだ。チョットマの脳に巣食った者が何者かを。僕らがまだウイルスだなんて言ってた時、それがパリサイドの星に住む宇宙生命体であることを。そして、さっきの台詞だ」
青き衣を着た亡者ども、仮面を投げ捨て、時の神に滅びの光を授けるなり。
「あの時、その言葉の意味を問う間もなく、ライラは逃げるように去った。きっと、詳しくは語れなかったんだろう。実際、その言葉の意味についてチョットマと話題にしたことがあるが、結局、僕たちはそのことを忘れてしまった」
イコマはチョットマに同意を求めた。
「彼女、あの頃から、なんとなくだけど、僕たちと距離を置いてるって感じなかった?」
チョットマはこくりと頷いたが、私はそうは思ってないけど、という気持ちがありありと出ていた。
それはそうだろう。
チョットマにとって、とても大切な人、ライラ。
そう感じていたとしても、そう言えるはずもない。
「かなり苛ついてたしね。で、ライラの次のフレーズはこれだ」
ンドペキがミッションに参加し、パキトポークに会いに行くと言った時のこと。
ライラは、しみったれたことを言うんじゃない、と叱りとばした後、こう言った。
状況はあんたらが考えているより、もっとアクティブかもしれないさ!
いろんなことが起きるだろうってことじゃないか!
「これから何が起きるのか、知ってるみたいだと思わないか」
そう。
彼女は知っていた。
僕たちはもっと早くに気づくべきだったのかもしれない。
そして、キョー・マチボリーの不安に気づくべきだったのかもしれない。
ああ、と今度はチョットマは溜息を漏らす。
「そう。チョットマがライラを紹介したとき、キョー・マチボリーは明確にこう言ったんだ。不思議な……、出生に……」
チョットマとレイチェルが互いの目を見交わした。そうだったねと。
「そのキョー・マチボリーの不安は、なんて失礼な!、ということで収まったけれども、少なくともキョー・マチボリーはなにかを感じていたんだ。ライラという女性がここにいることについて」
キョー・マチボリーは今、この会話を聞いているだろうか。
彼の体力は回復し、船の運航はもちろんのこと、市民生活に大きな役割を担ってくれている。
キョー・マチボリーは宇宙船スミヨシの意志そのもの。電脳の存在であることはもう誰もが知っている。
オーエンがエーエージーエスのシステムそのものであったように。
「それから前夜祭での出来事。ライラはこれまで以上に聞き耳頭巾に強い関心、というより執着を持っていた」
彼女は、聞き耳頭巾の布を貸して欲しいと頼んだ。
そして、頬ずりするように布をかき抱き、こう言ったんだ。
ネイチャー、あんた、いったい、どこに行ったんだい。
「そして、僕たちにはピンとこない説明をしてくれた。そしてこうも言った」
こういう姿になるとはねえ。
「明らかにライラは、この聞き耳頭巾の布のこと知っていた。この形かどうかは別にして。珠と言っていたから」
アヤを見た。
もう分かっているのか、すました顔で見つめ返してくる。
「アヤにこの頭巾を授けたのは奈津という女性。お婆さんだ。京都の山奥の村の長老の一人。巫女。僕もユウも会ったことがある」
奈津、NATU、ネイチャー……、綴りは……。
ん……、全くの想像だけどね。




