表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/200

187 真相3 奴らが知りたかったもの

「まあ、とはいっても、奴が事件の真相に迫る重要な言葉を吐いたわけではない。むしろ混乱させたというべきだろう」

 ある日、講義が終わった時に、奴はンドペキにこう言った。

 神が一組の男女を探している、とね。

 その言葉によって、その男女とは、アヤとプリブではないか、と考えてしまった。


 結局、サワンドーレはそれ以降、我々の前に姿を見せていない。

「ステージフォーの幹部だったわけだ。それもたぶん筋金入りの」


 アヤをリペアセンターから連れ去った「プリブ」は、サワンドーレだった。

 アヤが正気に戻った後で話してくれた「証言」によれば。

「ステージフォーの集団の中にプリブはいなかった。少なくとも、アヤが目にした限りでは」




 イコマはアヤの顔を見た。

 話してしまうけど、いいかい。


 アヤは俯いている。

 彼女も、まさに被害者。

 完全に洗脳されかかっただけでなく、危うく死にかけた。あろうことか、昔の傷さえ逆なでされて。

 今ここでその顛末を話すことは、もちろんアヤは了解済みだ。



「フイグナーという男がいた。ンドペキに謝りたいといって、訪ねて来たパリサイド。ニューキーツの仮想の海で暮らしていた特殊なアギ。イルカの少年」

 こいつも僕と同じようにパリサイドの体を得ていた。

 とんだ食わせものだった。

 元の名をミズカワヒロシという。アヤの最初の結婚相手。



 心の痛みはかなり薄まったとはいえ、易々とミズカワヒロシにアヤの居場所を教えてしまい、結果としてアヤに重篤な傷を負わせてしまったこと。

 悔やんでも悔やみきれない出来事だった。

 奴の心は分からないまま。

 死んでしまったわけだが、アヤと再び関係を持てないのなら、心中するつもりだったのかもしれない。


「しかし、奴のこの行動によって、サワンドーレが言った一組のカップルの意味がはっきりしたといえる」



 パリサイドに巣食う宇宙生命体ロームス。


「はっきり言えることがある。奴らは、いや奴はというべきかな、は人間のある特殊な意識に興味を持っていた。それはチョットマの聞き耳頭巾を使った奴との会話で推測することができる」



 恋、あるいは愛……。



「最初に取りつかれたンドペキは、ユウやスゥ、そしてレイチェルの夢を見た。スミソも同様だ。そしてチョットマは、ンドペキの夢を見た」


 そして、決定的な話。

 チョットマが聞き耳頭巾のショールを頭に巻いた途端、チョットマの頭の中に木霊した声。

 それは、こう言っていたんだ。

 ンドペキを想う気持ちとはどんな気持ちなんだと。



 パリサイドの星に充満する白い霧。

 宇宙船スミヨシの街に流れていた白い霧。

 マスカレードの中でさえ渦を巻いていた白い霧。

 それは、宇宙生物ロームスの肉体、あるいは意識。



 奴らが知りたかったものとは。


 恋の激情、愛の深遠。


 人の脳裏にある記憶を網膜に映してみせ、言葉にならない質問を発することによって生まれる、あるいは変化する心理を読み取ろうとしていたのだ。

 奴らには、奴らの言葉を借りると、一人は全体で、全体は一人。つまり、個というものは存在しない。

 相手というものがない。ましてや異性もいない。

 恋や愛という感情が生まれる素地はない。

 人の心を占めるその大きなものに、興味が湧いても不思議ではない。


「奴らが知りたいそういった感情。その一つの究極点として、奴はアヤに目を付けた。その相手は、アヤが離婚した相手、ミズカワヒロシ。二人を引き合わせることによって、二人の心に生まれる何かを見たかったわけだ」


 イコマやンドペキがあの時、ミズカワに後を付けられるというへまをやらかさなくても、早晩、ミズカワはステージフォーの「計らい」によって、アヤの部屋を訪れていたことだろう。

 実際、ステージフォーの幹部がそれらしいセッティングをしている。

 アヤとミズカワを二人きりにする演出を。

 ロームスに操られた連中が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ