185 目を凝らさなくては見えないほど微細なヒント
プリブが拉致される前夜、チョットマのダンスの相手になるべく近寄ってきた男三人。
その中のぼろを着た男が首尾よくチョットマの心を掴むことができ、翌週の舞踏会でまた会おうと約束した。
しかし、男は現れなかった。
現れなかったということは、コンピューターが作り出したキャストではなく、我々と同じようにそこに参加した人物である可能性が高い。
プリブではないか。
逮捕されてしまっていたから。
「加えて、男が名乗ったEF16211892という名。数字をアルファベットに置き換えると「プリブ」となる。しかし、推理はそこで停止した。全く何の手がかりも、ヒントもないばかりか、どちらを向いて何を探せばよいのかも分からない状態だった。しかも」
アヤが行方不明になっている。
ンドペキが倒れ、スミソが倒れ、果てはチョットマまで悪夢に倒れている。
プリブには悪いが、それどころではなかった。
「しかし、小さな出来事は、目を凝らさなくては見えないほど微細なヒントは、身近なところにいくつかは落ちていたんだ」
話を端折っていくが、とイコマはチョットマの顔を見た。
視線がまともにぶつかった。
もう、すべてを知っているのだろうか。
真剣な目をしている。きっと、知っているのだ。
イコマは、視線をスミソに向けた。
こちらも、同じような目をしているが、少し笑っているような表情だ。
スミソ。
イコマはこの男を見るとき、自分に重ね合わせてしまうことがある。
これほどチョットマを愛しているのに、報われない男……。
自分と同じという意味ではない。自分は十分に幸せを謳歌している。
スミソの、力のなさ、押しの弱さ、を思ってしまうのだ。
チョットマを想うあまりに一歩下がってしまうところ。
そこが自分と似ていると思うのだった。
スミソが膝を乗り出した。
関心があるのだ。
彼自身の理由があって。
この話をするつもりはない。
スミソの顔に泥を塗るつもりはない。
今や、サブリナの顔を持つこの男の顔に。
しかし、話の間が空きすぎたのか。
スミソがぽつりと言った。
「二人目の男、それは僕です」
そう。
「だよね」
聴衆には意味が分からないだろう。
マスカレードでチョットマにダンスの申し込みをした二人目の男。スミソが、それは自分だと名乗ったわけだが、それが事件に関係するわけでもない。
スミソよ。
それをわかっていて、あえてこのタイミングを選んだのだろう。
チョットマに告白するために。
スミソらしい、としか言いようのないタイミングだったが、イコマはまた、自分と重ね合わせた。
スミソがチョットマのどんな反応を期待していたのか分からないが、チョットマは黙って何度も頷くだけだった。
しかし、その顔には幸せの色が貼りついている。
そしてスミソを見つめた。ありがとうというように、瞳を輝かせて。
スミソにはそれで十分だったのだろう。
「すみません。関係ないことだったみたいですね」
と、控えめな笑みを見せた。




