183 もう今しかないかもしれない
もうパリサイドの姿をしている者はいない。
イコマもスミソも。
ユウは昔のユウの姿。
イコマは誰か分からないが、見知らぬ男の姿になっていた。
スミソに至っては、元のスミソには似ても似つかぬ容姿をしていた。
女性……。
サブリナ……、なのだろう。
サブリナがその肉体の構成要素を再生カプセルとして保持していたものによって、スミソは命を繋いだからだった。
ユウのように生き延びてきた者は本来の自分の容姿を維持しているが、新たにパリサイドとなった者には、いわばかつての神の国巡礼教団の亡くなった者の生まれ変わりとなっている。
もちろん、その人そのものではなく、肉体の表面的な構成要素を引き継いだのだった。
ここにいる者だけではない。
すべてのパリサイド、パリサイドの体を得た全てのアギもそうだった。
アングレーヌはサリの姿ではなく、新しい別のチャーミングな女性姿だった。
イコマは、がっしりした陽に焼けた体躯。
青年の体を得た。
目つきの柔和な面長の顏にスキンヘッド。
どの時代でも、男前、の範疇に入るだろう。
外観は全く変ってしまったけど、中身は変わらないからね、とチョットマには言いつつ、ホッとしたものだ。
あのパリサイドの身体。
ロームス、あるいはチョットマにフロッグと名付けられ、神として崇められた宇宙生物によって、そのコントロール下に置くために与えられたものだった。
ロームスが消滅した今、その呪縛から解き放たれ、まさに「自分」を取り戻したのである。
もう、宇宙空間を飛び回ることはできない。
宇宙線をエネルギーに変えることもできない。
水中を自由に泳ぎ回ることもできない。
他人の顔を身に纏うこともできない。
再生カプセルを使って生き返ることもできない。
大西洋の海の底とはいえ、地球に帰還した今、そのことを惜しむ声はない。
たとえ、再びあの体に身を変えることができると差し出されても。
実際は、自分の意志でまたあの体に戻ることができる者がいる。ただ、一時的であれ、そうする者は多くはない。
親しい者たちが、今、三々五々、なんとなく車座になって床に尻を付けている。
アヤとチョットマとシルバックが、テーブルに残っていた料理を小皿に取り分け、飲み物を並べていく。
「思い出すなあ」と、隊員が嬉しそうな声をあげた。
まだ、彼らがニューキーツの郊外でマシンを狩っていた頃。
初めてヘッダーを取り、素顔を見せあったあの時……。
裏切り者ンドペキに当時隊長だったハクシュウが殴りかかったあのくぼ地……。
そしてスゥの洞窟での日々……。
今、隊員達の目には涙さえあった。
型どおりに、スジーウォンが攻撃隊の解散を告げた。
前隊長であるンドペキが、副隊長であるコリネルスが短い挨拶をした。
そして隊の総指揮官である、ニューキーツ長官レイチェルが、全ての隊員ひとりひとりに、声を掛け、キスし、抱きしめていく中、隊員達が互いをねぎらった。
装甲を身に着けている者はいない。
チョットマのあの歌を口ずさむ者がいる。
何を数えているのか、指を折っている者がいる。
互いを呼び合う声が響く。
男も女も、誰彼なしに抱きついては、涙ぐむ者がいる。
しかしやがて、部屋の中から声は消え、動きも止まった。
料理の残り香だけが部屋の空気に華やぎを与えているだけとなった。
イコマは、人々の顔を順に眺めていった。
先ほどまでの少々浮かれ過ぎた高揚感は消え失せ、心に奥に沈んでいた亡き人への思いが浮かび上がってきている。
そうだ。
話せるのはもう今しかないかもしれない。
聞いて楽しい話ではないし、何かを得られるわけでもない。死んだ人が生き返るわけでもない。
しかし、自分の得た結論をここに提示し、みんなに判断してもらうことは必要なことかもしれない……。
「じゃ、全員、座り直して。私も座るし、イコマさんも」
と、スジーウォンが促してくれる。
「事の発端は、プリブがチョットマとスミソの目の前で拉致されたこと」
そう言ってイコマは、ワイングラスを床に置いた。




