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181/200

181 新たな居場所を得て

 あれから、ひと月。

 宇宙船スミヨシは、地球は大西洋の海底、カリブ海にほど近いプエルトリコ海溝の淵に停泊していた。


 グラン・パラディーゾの崩壊直前、エネルギーの前哨波が船体を洗う中、超高温のプラズマの渦が到達する直前、その巨体を時空の狭間に移していた。

 そしてその直後、地球に向けて発進したのだった。


 その一連のアクションはかなり強引だった。

 船内にいた人々は強烈な加速度によってなぎ倒され、宙を飛び、意識を失い、人によっては帰らぬ人となった。

 それでも、多くの者は生き残り、眼前にまみえる青い星の美しい姿に驚嘆の声をあげたのだった。



 人々が喜びに沸く中、宇宙船スミヨシはそれが自らの意志であるかのように、太陽フレアの長大な舌をかいくぐり、地球大気圏に至った。

 大西洋に着水するや否や潜航を始め、水の圧力に耐えながら光の届かぬ頃合いのよい海底にその身を横たえたのだった。


 船はグラン・パラディーゾのゲートから流れ出す初期段階のエネルギーを余すことなく吸収し、暴発の直前には航行に十分なエネルギーを補給していた。

 そればかりでなく、海底での安定的な暮らしを支える各種の生産、人々が暮らしていくための環境の維持、水圧に対する抵抗、そしてスミヨシ自体の船体維持を十年間は継続していくに余りあるエネルギーを有していた。



 人々は、再び構築された船内の「街」にそれぞれ居場所を得た。

 しかし、この暗い、そして過酷な水深数千メートルの海底で、この先未来永劫、暮らしていこうと主張する者は多くはなかった。





「さあ。イコマさん。話してください」

 レイチェルの声に、吐く息の音さえ聞こえるほど、静かになった。


「いや、そんな話、もう誰も聞きたくないんじゃないか」

「いいえ。プリブはもう死んでしまったけど、謎とは何だったのか。それを聞いておかないと、死んだ人みんなが浮かばれない。幸いにして生き残った私達も、彼らに正しく思いを馳せることができないじゃないですか」

「でもね。今日はいわば晴れがましい日。死についての話はふさわしくないんじゃないか」


 チョットマと目があった。

 その瞳は、話して欲しいと訴えていた。


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