18 その言葉ひとつによって
宇宙空間。
つまり人類が住む空間、この宇宙。
これ以外に、多くの宇宙が存在することは周知の事実。
人類がそれらを自由に行き来することは未だできないし、その必要もないが、多元宇宙という概念は既定となっている。
「パリサイドは、次元の狭間を潜り抜ける。ユリウス宇宙、僕らの住むのこの宇宙の隅々まで到達することができるんだよな」
「そうよ。簡単なことじゃないし、最遠部は無理だけどね」
「かつて神の国巡礼教団は、そうやって宇宙を旅しようとした。初めて人類は本物の宇宙空間に飛び出し、冒険に出たわけだ。次元の狭間を縫って」
「うん。でもそれはちょっと違うのよ。次元の狭間って、本来、次元と次元を隔てる隙間のような場所であって」
「正確に言うと、そういうことになるか」
「私たちがいるこのユリウス宇宙、それを包んでいるこの次元、つまりユリウス次元の本当の構成は、二十一世紀に生きた私たちの理解とはまったく違っていたのよ」
宇宙空間を平面に例えると、アコーディオンのように折り畳まれているという。
折り畳まれた空間がまだ折り畳まれて。と、それが繰り返されているらしい。
「その折り畳まれた尾根の部分を渡っていけば、かなり遠くまで瞬時に移動できるということ」
「次元の隙間じゃなかったわけだな」
「そういうこと」
「空間三次元に時間を加えて4次元、と考えられてたでしょ」
「ああ」
「それも違ったのよ。実際は、三の三乗の空間、つまり二十七次元。次元というからややこしいけど、軸、つまり27個の次元要素があるってことね」
「そんなに!」
「地球人類はここをホームディメンジョンと呼んでたけど、私達はJディメンジョン、つまりユリウスディメンジョン、て呼んでるわ」
こうしてユウは、少しずつパリサイドの世界観を教えてくれる。
理解を超えているし、正直に言うと、どうでもいい話だと思うこともあった。
しかし、なんとか理解したいとも思っている。
それがひいては、神の国巡礼教団解体後、彼らが自らをパリサイドと呼ぶようになった経緯や、この肉体を持つようになった経緯を理解する元になる。
パリサイドの歴史を知る上で、彼らが得た宇宙観を知らねばならない。
かといって、イコマにとって、歴史はそれほど重要ではない。
歴史学者でもないし、興味がそそられることもない。
知りたいのは、ただ一つ。
ユウが過ごしてきた年月の中身だけ。
ユウが話すパリサイドの世界観の話を面倒とは思うが、いつも黙って聞くことにしている理由だ。
そしても一つの理由。
この呪われた身体。
ユウが以前、口にした言葉。
あれ以来、聞くことはないが、ずっと気になっている。
自分がその身体を得ることになったからではない。
この数百年の間にユウに降りかかった数多の出来事が、その言葉ひとつによって、決して幸せに満ちたものではなかったことを暗示している。
それを、いつかは知りたいと思っていた。




