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179 ンドペキ、みんなになにか、言ってあげて

「ああ……」


 スジーウォンの声に、何人かが顔を上げた。

 グラン・パラディーゾのゲートが崩壊しようとしていた。


 溢れ出す光で、すでにゲートの輪郭も見えなくなっていた。

 ベータディメンジョンのエネルギーがゲートを通って、こちらの宇宙に流れ込む前兆なのだろうか。



 ユウ……。

 イコマは思わず呟いた。

 何枚かの壁を隔てたところにユウがいる。


 ユウ……。


 一気に、様々な思い出が現れては消えた。


 六百年ほども前……、出会ったころのユウ……。三条優……。

 大阪の天王寺公園でのデート、福島のマンションでの暮らし、他愛もない出来事の数々……。

 フラッシュのように、それらがちかりと光っては別のシーンが光る……。

 生駒延治と二人合わせて、生駒山上遊園地なんて、ごろ合わせを発見して……、楽しかった……。

 ありがとう……。

 本当に幸せだったよ……。


 最後にもう一度、顔を見たい……。ユウらしいあの笑顔でなくてもいい……。

 抱きしめたい……。

 声を聞きたい……。

 頬に触れたい……。

 キスしたい……。

 全身でユウを感じていたい……。

 愛してる……。



 それでもイコマはこの場を動くまいと決めていた。

 きっと今、最後の力を振り絞って、ユウは戦っている。

 その邪魔をしてはいけない……。




「いよいよみたいね」


 スジーウォンとコリネルスがさっぱりした声で話している。

 グラン・パラディーゾの装置そのものが溶解していた。

 ゲートがあった場所に、この巨大な宇宙船を飲み込んでしまうほどの光の玉が浮かんでいた。


「太陽みたいだな」

「さっきより離れてる。宇宙船が吹き飛ばされかけてるのね」

「そういや、地球はどうなったかな」

 二人は、強烈な意志で声の震えを抑えつけ、まるで世間話をするかのように、言葉を発している。



 イコマはライラに近づいていった。

 何かを話したかったわけではない。

 ただ、チョットマとスミソを二人きりにさせてやりたいと思っただけだ。

 死の間際に彼らが何を話すのか、聞いてはいけないという気がしたのだった。



 ライラが呟いていた。


 これで奴は滅びる。

 もう未来永劫、人を襲うことはない……。助かった……。


 そして短く息を吐き出した。

 長かった……。長い旅だった……。

 私の使命も、これで……。

 さあ、オーエン。

 私もひと思いにやっておくれ……。



 スジーウォンが振り返った。

「ンドペキ、みんなになにか、言ってあげて。私より、きっとあなたの方が、洒落たことを言うと」



 その時だった。


 強烈な揺れを感じ、体が吹き飛んだ。

 その瞬間、すべてのものが消えた。




 グラン・パラディーゾは崩壊し、次元のゲートはコントロールを失った。

 ベータディメンジョンのエネルギーがまともにこちらの宇宙空間に放出された。

 パリサイドの星もろとも、すべてのものが一瞬のうちに蒸発し、消滅した。

 星に住む人々も、白い霧も、そしてそれらが持っていたすべての意識も。


 ベータディメンジョンのエネルギーは、宇宙空間のかなりの範囲を素早く走り抜け、やがてダークエネルギーに撹拌され、薄まって消えた。


 この次元の宇宙空間、すなわちユリウス宇宙においては確かにひとつのエポックとなり、歴史の一コマとなった。

 エネルギー放出は瞬時に行われたが、ベータディメンジョンのゲート付近のエネルギー密度が薄まり、こちら側のそれと均衡が取れるようになると、ゲートも自然と口を閉ざした。


 何事もなかったかのように、ユリウス宇宙はこれまで通りダークエネルギーによって膨張を続けている。


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