178 レベル10
チョットマが泣きじゃくっている。
嗚咽の中に聞こえてきた名は、「プリブ」。
何とかグラン・パラディーゾから連れ降ろし、ようやく建物内に戻ってきた。
指令室に程近い、かなり大きな部屋。
グラン・パラディーゾがよく見える窓のある部屋。
ライラ、スジーウォン率いる攻撃隊の面々。
指令室に入りきらない。
しかも、チョットマはこの状態だ。
オーエンに対しなすすべがないとはいえ、ユウの立場を考えると、連れて行くわけにはいかなかった。
イコマはチョットマを抱きしめていた。
オーエンの出現による状況の変化は、ここにいる者全員に既に伝えてある。
スゥがンドペキの胸に顔を埋めている。
アヤは聞き耳頭巾を握りしめ、もう片方の手でチョットマの髪を撫で続けている。
スジーウォンとコリネルスは窓からグラン・パラディーゾを見つめ、ライラは一人、別の窓の前に立って背を向けている。
隊員達は、ほとんどの者が、いつもそうするように床に座って、己の手を見たり、目をつぶったりしている。
覚悟などできそうにないが、もう助かる見込みはない。
誰もが悲壮な顔をしているが、だからといって騒ぎ立てる者はない。
やがて、グラン・パラディーゾのレベルが10に達し、その後、何が起きようとも、きっとこのまま静かに何かを待つのだろう。
それだけの精神力を持っている。
いや、そうしようと心を固く縛りつけ、己を律しているのだ。
じたばたすまい。
少しでもチョットマを慰めようと。
隊員の一人、シルバックが、チョットマのあの歌を口ずさんでいた。
「グラン・パラディーゾのレベルが10に達したそうよ」
レイチェルが戻ってきて、伝えた。
穏やかにそう言ったが、唇がわなないていることは隠しようもない。
それでも、誰も口を開かない。ただ、小さな唸り声が聞こえたのみ。
見れば、グラン・パラディーゾのゲートが極大化している。
オレンジ色の光が、まるで炎のように揺らいでいる。
レイチェルがンドペキを見た。
そして、その視線は床に落ちた。
アヤが近づいて、レイチェルの震える手を取った。
「市民に伝えるべきかしら……」
アヤは首を横に振り、
「ううん。一緒に、ここにいよ」と、親友レイチェルの顔を見つめた。
イコマはチョットマを離し、抱きしめる役をスミソに代わった。
彼が緩衝地帯に飛び込み、チョットマを救い上げてきてくれたのだ。
あの時その場に、スミソ以外にパリサイドはいなかった。
イコマもパリサイドの肉体を持っているが、大空を飛ぶこともできなければ、宇宙空間になど飛び出していきようもない。
身を挺してチョットマを救ってくれたプリブ。
その身体が緩衝地帯の結界を超えていくのを、チューブの外へ漂い出ていくのを指をくわえて見ているしかなかったのだった。




