176 このわずかな距離が……
「行ってくる!」
「あっ」
スゥがゲートに突入しようとした。
「わっ」
ダメだ。
ゲートはオレンジ色の光を放っている幕のようなものだと思っていたが、そうではなかった。
スゥは、ものの見事に硬い壁に激突したようにはね返されてしまった。
「くそう!」
ベータディメンジョン側のゲートまで、わずか五十メートルほど。
そこにチョットマを待つンドペキがいるはず。
「ンドペキ! 聞こえてたら返事して! 帰ってきちゃダメ! ゲートを超えたらダメ!」
スゥが声を限りに叫ぶが、返事はない。
きっと、声は届いていない。
くそう!
無力だ……。
このわずかな距離が……。
手はないのか……。
チューブに浮かんだ通路にチョットマやンドペキが、やがて姿を現すのを黙って見ているしかないのか……。
顎から血が滴り落ちた。
強く噛んだ下唇が震えていたが、もう痛みさえ感じなかった。
なんてことに……。
もう、自分達が消滅することが避けられないなら、せめて二人は助けたい!
そうだ!
グラン・パラディーゾを暴発させればいい!
暴発によって、ベータディメンジョンがどうなるかわからないが、生き延びる一縷の望みはあるのではないか。
そこに賭けるべきではないのか!
少なくとも、ここで全員消滅という結末よりは!
ユウの元に戻るべきだ!
そして、オーエンに告げるべきだ。
さっさとやってくれと!
チョットマとンドペキが戻ってきてしまう前に!
ゲートまで追ってきていた、ライラ、レイチェル、スジーウォン率いる攻撃隊の面々の顔を見た。
と、その時だった。
スゥの叫び声。
「あそこ!」




