175 まだ、希望はある
イコマはいてもたってもおれなかった。
オーエンが時間の猶予をくれたとはいえ、グラン・パラディーゾが暴発すれば、ベータディメンジョンのエネルギーが宇宙を滅ぼす。
ユウやスタッフは、シャットダウンを試み続けている。
あるいは、モードの変更。
こちらの次元からの一方通行にできれば、多少なりとも、人々を向こうの次元に移すことができるかもしれない。
最悪でも、ゲート通過可能人数のカウンターをゼロに。
そうすれば、現時点で向こうにいる者は助かる見込みがある。
しかし、オーエンにシステムを乗っ取られていては、なすすべなしというのが現実。
「ゲートへ行ってくる!」
ンドペキやチョットマに、こちらに戻って来るなと伝えるために。
ユウが軽く頷いた。その瞳の中に恐怖がないことを見届け、部屋を出た。
「私も!」
スジーウォンと一緒に、グラン・パラディーゾの階段を駆け登っていった。
次々と後に続いてくる者がいるが、そんなことはどうでもいい。
最上段に登りつめる前に、ゲートから続々と人が出てきた。
調査隊の帰還が始まっている。
誰もが急ぎ足で、言葉を交わすわけでもなく、顔色も冴えない。
ベータディメンジョンの状況は芳しくなかったのだ。
くそ!
向こうの状況がどうであれ、こちらの次元に出てきてしまえば、もう戻ることはできない。
今、グラン・パラディーゾのモードは、ベータディメンジョンからこちらの次元への一方通行。
チョットマ! ンドペキ! 出てくるな!
怪訝顔の調査隊の間を縫うようにしてイコマは登った。
間に合ってくれ!
まだ、ンドペキともチョットマとも出会っていない。アイーナとも。
厳密にいえば、こちらのゲートではなく、向こう側のゲートをくぐれば、それで万事休す。
緩衝地帯のチューブは、こちらの次元にある。
一旦チューブに出れば、もうこちらの次元に戻ってくるしかない。そういう仕組みだ。
すれちがう人の流れが途切れた。
ん?
ンドペキ、チョットマ、アイーナはいなかった。
どういうことだ。
調査隊の最後尾のスタッフに、事情を聴いた。
チョットマが集合時間に戻らず、ンドペキはチョットマを待つと。
まだ向こうにいるという。
アイーナは、パキトポークと共に居残ると言い出し、姿が見えなくなったという。
ベータディメンジョンから避難してきた市民が十人。
その人質としてあらかじめ選ばれてあった三人の中に、アイーナ自身が含まれていたのだという。
驚きました、とスタッフは首を振って、そそくさと階段を降りていった。
そうか。
まだ、希望はある。
しかし、こちらに来るなと、どう伝えればいい。
なにか、手はないのか!
ゲートに到達した。
崩壊が始まっているようで、向こうのゲートが透けて見える。
人影までは見えないが、緩衝地帯はおぼろにだが見渡すことができる。
緩衝地帯とはいえ、元々はこの次元の宇宙空間。そこに仮設的に設けられた移動用廊下。
チューブを通して星が瞬いていた。




