17 シルバックとは、どう?
隊員がとりなすように口を挟んだ。
「で、何をしてたんです? ンドペキは。それに、スミソはなぜあそこに?」
スミソも、この部屋からさほど遠くない路上に倒れていたという。
隊員三人連れ立って、ゴミが落ちていないか、巡回中に発見したらしい。
「アヤを探しに行って」
アヤの聞き耳頭巾のことは、隊員は全員知っている。
スゥが事情を話した。
「で、スミソは?」
こちらも隠すことではない。
昨夜の訪問者、フイグナーの件を話した。
「消え方が変だった。そいつの素性を探るために、後をつけて行くって」
誰も、後の言葉はなかった。
ンドペキのうなされた声と、スミソの息遣いだけが聞こえていた。
沈黙を破ったのはスゥだった。
「まずかったのかもしれない。私がもう少し考えていたら、二人を部屋から出さずに済んだのに」
「夜は出歩くなっていう、あれ?」
「そう」
「それに、今日は双戯感謝祭だから?」
スゥはうな垂れ、頭を抱え込んでしまった。
「スゥだけが悪いんじゃないよ。出歩くなって、皆が知ってることなんだし」
チョットマは何とか励まそうとしたが、自分が原因かもしれないという気持ちがますます大きくなった。
「悪いのはきっと私。スゥじゃないよ」
ライラの声が飛んだ。
「やめな!」
スゥがまた言った。
「でも、誰もまともに取り合ってなかったでしょ。ンドペキもスミソも。引き止めればよかった……」
確かにそれはある。
出歩くなと言われても、禁止というほど強い命令ではなかったし、所詮それはパリサイドのしきたり、という気持ちがあった。
イコマに知らせなければ。
「私、行ってくる。パパも心配だし」
隊員がドアを開ける。
「一緒に」
「ありがとう」
イコマの部屋はンドペキの部屋から徒歩で三十分くらい離れている。
隣同士みたいに住んだら、とイコマやンドペキに何度か話しているが、その気はないようだ。
両方の部屋に毎日のように顔を出すチョットマにしてみれば、その距離が面倒だといえなくもない。
ここでは装甲を付けたとしても、浮遊走行はできないし、禁止もされている。
薄々感じることはあった。
イコマとンドペキ。
避けあっている、ほどではないにしろ、できることなら一緒にいたくないという気持ちがあるのでは。
それはそうかもしれない。
全ての記憶を共有し、意識も同期していた。
それが一時期、大いに役立ったわけだが、今となっては、なんとも居心地の悪いことではないか。
それにしても、と思うことがもうひとつ。
ユウとスゥの間にも、奇妙な間合いが感じられるのだ。
大人の世界ってことかな、と気に留めないようにしているが、今回のような事件が起きると、何とかならないのかな、と思ってしまう。
今も、そう。
パパを呼んでくると言うと、ユウがいたら無理に連れ出したりしないでね、とスゥは言ったのだった。
ユウも来ればいいじゃない。
でも、ライラの眼が変に煌めいたのを見て思い留まったのだった。
「ねえ。私」
隊員と並んで歩きながら、どうすればいい? などと聞きそうになって、急いで話題を取り繕った。
「思うんだけど、好きになった人と結婚するって、自然なことなんだね」
あまりに場違いな話だと思ったが、案の定、隊員は怪訝な顔をしただけだった。
行きがかり上、
「シルバックとは、どう?」と、聞いてみる。
ンドペキとスゥが家族として一緒に住むようになって、東部方面攻撃隊の隊員達に少なからず影響を与えていた。
異性を好きになるという当然の感情を、誰もが思い出していたのだ。
この隊員とシルバックの仲についても、噂が流れている。
「なにもこんなときに」
「ふうん。やっぱり、そういうことなんだ」
「チョットマ、待てよ」
「いいことだと思うよ」
「おい」
「シルバック、友達なんだけど、なにも話してくれないなあ」
そんなことを話しているとき、スゥが追いついてきた。
「交替」と、隊員を帰らせてしまった。
話題の収束の仕方に困っていたチョットマは、ほっとすると同時にうれしかった。
スゥもやはりパパを心配してくれていたんだ。
「イコマさんなら、なにか知ってるかも」
それもある。
イコマの部屋に行けば、ユウと会うことになるかもしれない。
それでもスゥが行こうという気になってくれたことを素直に喜んだ。
「だよね!」
しかし、イコマもユウもいなかった。
部屋で待つというチョットマを残して、スゥは出かけていった。
薬を探してみると。




