165 よくぞ、娘を
「私は生きている価値のない人間です」
あんな団体に他の人を引き込み、その家族を不幸にしたばかりか、その人が死にかけているとき、助けようともしなかった。
どうお詫びをすればよいのか分かりません……。
許していただけるとは思っていませんし、私がここで死んだとしても、罪を償ったことにもならないと思います……。
「本当に、本当に、申し訳ありませんでした……」
もう、サーヤは床に突っ伏して泣きじゃくっている。
イコマは、暗然たる気持ちになった。
人の心を支配する宗教というものに、そしてそんな妄想を広めて、人々を支配しようとする組織の邪悪さに、改めて強い怒りを感じた。
そんなものと、とうに決別したはずの人類。
なのに、またぞろ、ステージフォーなどと名乗る者達が現れて、ありもしない存在を担ぎ上げ、組織を大きくしようとしている。そして社会に根を下ろそうとしている。
人の心の弱みに付け込んで。
こんな宇宙の只中においてでさえ。
人類が他の次元に移行することができるほどに、科学が進んだ今でさえ。
そうか。
だから、ステージフォーはグラン・パラディーゾを妨害しようとしていたのか。
ベータディメンジョンに移行し、地球と行き来ができるようになっては、困るのだ。
そんな便利なことになれば、神の有難みがなくなるのだ。自分達の組織の優越度が下がるのだ。
だから……。
なんという低レベルな発想。
なんという自分勝手な動機。
イコマは、ウジ虫がいっぱいの糞ツボに頭から浸かったかのような気分になった。
ウジ虫が口から耳から、鼻の穴から体の中に這い行って来たような気分になった。
サーヤが顔を上げた。
天井を見つめた。
そこにオーエンがまだいる、というように。
「あなた! あなた! 私をここで、もう一度、殺してちょうだい! どんな方法でもいい! 償いにはならないけれど、せめて、せめて、少しだけでも、償わせて! お願い! あなた! JP01、もうカプセルは使わないで! 私は死ななきゃならないの! あなた! 早く! あなた! 殺して!」
固唾を飲んで見守る中、ライラが口を開いた。
「あたしゃ、あんたを憎んでいるよ。夫のホトキンも。心の底にずっしりたまっているよ。憎しみが。よくぞ、私達の娘を」




