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160 七時十一分

 手近な一軒の小屋の暖簾を開けてみた。

「こんにちわ!」

 誰もいない。

 ほんとに小さな小屋だった。

 しかし、人が住んでいる所。

 調度品もキッチンも、それこそ何もない狭い部屋に、ベッドだけがぽつんと置かれてある。

 掛けられた毛布が半分ずり落ちて、うっすらと埃が積もっていた。


 次の小屋もその次の小屋も。



「誰も住んでないみたい」

「先へ進むしかないな」

「池のあった場所へ」

「ああ。まだあるかどうか、怪しいけどな」




 不安だった。


 ンドペキもそうなのだろう。

 歩き出して、一言も口をきかない。

 掛ける言葉も見つからない。


 パキトポークは無事だろうか。

 こちらの方向で合ってる?


「今の人、アンドロかな」

「さあな」

 会話はそれきりだった。



 時計を見た。

 七時十一分。


 調査終了時刻は八時三十一分。

 ユウお姉さんは明確に言わなかったけれど、その時刻に次元のゲートは閉じてしまうということだろう。

 次元のゲート集合時刻の八時十分まで、残された時間は、一時間と少し。


 先ほどの門まで、二十五分程度かかっているから、遅くとも、七時四十六分にはここを出立しなくてはいけない。

 残すところ三十五分。

 なのに、ニニどころか、まだパキトポークにも会えていない。



 この村に入ってから感じている不安が、ますます大きくなっていた。


 人がいることは分かったが、それにしても侘しいところ。

 廃墟と呼んでもいいかもしれない。

 細い路地を見上げても、見えるのは灰色の天井だけ。

 この次元の渦巻くエネルギーのシェルタの下に、こんな村があるとは思いもしなかった。


 こんなところにパキトポークは住んでいるのだろうか。

 スミソに抱かれてこの次元を訪れたのは、まだほんの数か月前。なのに、この変わりようはどうしたことだろう。



 パキトポーク。

 巨大で髭ぼうぼう。

 竜殺しの異名を持つ、東部方面攻撃隊随一の武力を誇る副隊長のひとり。


 チョットマには乱暴者と映っていた。

 しかし、混乱の中に見たパキトポークの心根の優しさ。

 それに触れて、その印象は変わり始めていた。



 チョットマにも、ここで別れることになったンドペキの心の痛みと、パキトポークの胸の中にあるものに、思いを馳せることはできる。


 二人の出会いの場に、自分はふさわしくないのではないか。

 むしろ邪魔になる。居てはいけない、という気もするのだった。

 それでも、パキトポークに一目会いたい、という気持ちも強いのだった。



 ニニはどうしているだろう。

 カイロスの生贄となったアンジェリナとセオジュンの傍にいると言って、このディメンジョンに残ったニニ。

 今も、池の傍に佇んでいるのだろうか。

 アンドロらしく、言葉少なに、アンジェリナとセオジュンのことを語り継いでいるのだろうか。自分の使命として。


 焦るなあ。

 ニニに会う時間はあるだろうか。

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