16 こんな時に……、いい加減にして欲しいよ
スミソも全く同じ状況だった。
違いといえば、少し息遣いが荒いことくらい。
「これは、どういう……」
隊員が困り果てたように呟いたが、スゥもライラも応えようがない。
チョットマはだんだん我慢ができなくなってきた。
ンドペキ、スミソ、そしてプリブ……。
そしてアヤちゃん……。
みんな、自分が大好きな人ばかり……。
堪えきれなくなった涙が頬を伝った。
「きっと、私がなにか、いけないことをしたから」
チョットマの声を、ライラがぴしゃりと遮った。
「変なこと、言うんじゃない!」
「うっ」
しゃっくり上げそうになるのを堪えて、老呪術師ライラを見つめた。
「でも」
ライラがさらに厳しい声を上げた。
「おまえ今、理由もなく自分を責めて、事態がなにか好転するのか!」
「……」
「スゥ」と、ライラが向き直る。
「知っていることがあるなら、早く教えな」
「私が?」
「そう!」
ライラの瞳が強く一瞬光ったが、すぐに声音を変えた。
「同業の誼じゃないか」
「うん。でも、どうしたらいいか、私も知らないのよ」
「そうかねえ」
「私の呪術の先生は、サキュバスの庭の女帝と呼ばれたライラ。その先生が分からないことを、私が分かるはずないじゃない」
「ふふん」と、鼻を鳴らす。
「あたしゃ、忘れたことはないよ」
「なにを?」
「数か月前、あの洞窟で。おまえがンドペキに錠剤を飲ませたことを」
「ああ、あれ」
ライラは、あれがンドペキとイコマが同期するための薬だったのでは、という。
「どうやって同期するのか、そういう説明はなかったが、あたしが思うに」
「ライラ、ちょっと待って」
「だろ?」
スゥが、ふうと溜息をついた。
「それと、今回のことと、どんな関係が?」
「知らないさ。でも、図星なんだね」
「違うわ」
チョットマも、ンドペキとイコマの意識と記憶が同期していたことは知っている。
えっ、そういえば……。
「ねえ! パパは大丈夫かな!」
今頃、倒れてやいないだろうか。
「そんなこと、ないと思うよ」と、スゥは言ってくれるが、心配になってきた。
「ねえ、その錠剤って、パパにも飲ませた?」
そう言ってから、勘違いに気がついた。
スゥは、「まさか。フライングアイに?」と微笑んでから、ライラを睨みつけた。
「くだらないこと言うから、チョットマが心配するじゃない」
ライラは、「さあね」と、大げさに腕を広げてみせた。
「ンドペキとイコマが同期していたのは、あの錠剤によってじゃないし、今回の事件にも関係ない!」
スゥがきっぱり言っても、
「あれにどういう作用があるのか、結局、教えてもらってないからね」と、宣う。
チョットマにも、その時のことは少しだけ記憶がある。
あの洞窟。ホトキンの間。
パパとンドペキとスゥがいた、あの時のこと。
自分はレイチェルとのことで頭がいっぱいだったが、三人ここで、何をしていたのだろう、とは思ったものだ。
「ねえ、スゥ。その錠剤って」
「ふたりとも、しつこいよ」
スゥは濡れ手拭いをことさらきつく絞って、ンドペキとスミソの額に当てた。
「こんな時に……、いい加減にして欲しいよ」
ライラは「お前なら、いい薬を持っているんじゃないか。そう思ったんだがね」と、開き直っている。
その眼は、少しも悪かったと思っていなさそうだったし、微笑んでもいなかった。




