150 思い出すね、ピクニックに行った時のこと
指定された時刻に、イコマ達はグラン・パラディーゾ準備室に向かった。
そこで、どこからどんな攻撃を受けたのか、発表もされるだろう。
船室の照明はあれからすぐに復旧されたし、巡回する警察官に聞いても、状況を説明してくれる者はいなかった。
市民はおおむね平静で、朝食を摂る様子もいつもの朝と同じ光景だった。
念のため、ンドペキとチョットマは愛用の装甲と武器を持参したかったが、先日の放電以降、エネルギーの充填はされていない。
必要なものは……、とチョットマはいろいろ考えていたが、結局は少々の食糧チップをポーチに忍ばせただけだった。
「なんだか、思い出すね。みんなとピクニックに行った時のこと」
チョットマはいたって元気そうだ。
ンドペキは思い詰めたような顔をしている。
パキトポークと会うことに加えて、チョットマを守らなくてはいけないことになって、緊張を漲らせている。
「ねえ、ンドペキ。パキトポーク、元気だといいね!」
チョットマは、そんなことを言っては、ンドペキに纏わりついている。
ミッションが実施されることを、少しも疑っていないようだった。
一行は、ユウを除く家族五人だけ。
見送りはない。
スミソには伝えないでおこうということになった。
アイーナのあの様子では、彼女も相当混乱している。
チョットマが行くなら、スミソは自分もと言い出すだろう。
しかし、却下される可能性も大きい。
そうなれば、ひと悶着あるだろう。
この大事なタイミングで、ユウを困らせることは何としてでも避けたかった。
準備室には大勢の人々が集まっていた。
誰もが忙しく動き回っている。
「ノブ!」
ユウが駆け寄ってきた。
「さあ、早く準備! ていうか、準備なんてないか」
と、笑顔で言う。
「グラン・パラディーゾの起動時刻が早まってん。さ、こっちへ」
参加者の控室へ向かう途中、ユウの短い説明では、攻撃は大したことではなかったらしい。
「やな感じやねん。相手は、ステージフォーの連中」
「まだいたんか」
「ううん。捕まえたやつを星に送り返したやん。その船が引き返してきて、このスミヨシに特攻かけたみたい」
「特攻っ」
「全員即死」
「なっ」
「こちら側の乗組員は、すんでのところで激突現場から脱出したからよかったけど」
百人以上が死んだことになるが、ユウの顔が曇ることはない。
さすがに笑顔は引っ込めているが、ミッションが予定通り実施されることが、よほど嬉しいのだろう。
むしろ喜びが見え隠れしている。
「通信だけじゃなく、スミヨシの観測機器全てがダウンしてるから、気付かなかったのよね」
「なぜ、そんなことが」
「原因? 黒幕? そんなん決まってるやん。やつらが神と崇めるロームスやろ。きっと。どこにでも入り込めるんやから」
「ステージフォーの連中も、自分がなぜ死んだか、分からんかもな」
ユウはもうそんなことに関心はない。
「グラン・パラディーゾの運転に支障がなかったことがなにより」
あくまでミッションが、思考の中心。
ステージフォーの特攻攻撃はスミヨシのエネルギー庫を狙ったらしい。
幸い、失われたエネルギーは微量。
「今となっては、小さなエネルギーも無駄にできない状況やけどね」
「で、スタートを早めた?」
「それもあるけど、船体に穴が開いたでしょ。また例の霧が紛れ込まないか、アイーナは心配で」
「なるほど。でも、スミヨシの運航には支障ないのか?」
「全然。相手はそもそも輸送船だし、この船のサイズに比べたら、象とアリンコ」
「そうか。で、グラン・パラディーゾの準備は?」
「いつでもオーケー。準備万端!」




