15 妻なら妻らしく、なんてね
同じ頃。
イコマの部屋。
ユウが戻ってきた。
「おう。久しぶりだな」
「なに、その嫌味な言い方」
イコマは今、ユウを妻だと公言して憚らない。
かつて、六百年以上も前、大阪の福島のマンションで暮らしていた時には感じなかった安らぎがあった。
夫婦、そして夫、妻という言葉に。
あの頃の、あいまいで頼りないふたりの関係。
それを打ち破り、切り開く勇気がなかった時を思えば、今はなんとすがすがしいことか。
妻なら妻らしく、なんてね。
などと、言える。
もちろん本心であるはずがない。
ただの戯言。
あるいは、甘えたいという意志の表現。
ユウもそれを分かっていて、
ごめんなさい、お父さん。などと返すのだ。
「で、今度の任務は?」
ユウの仕事について、まだ深くは知らない。
パリサイド軍勤務とはいうが、大幹部というわけでもなさそうだ。
一将校。
そういや、ニューキーツで再会した時、中間管理職、なんて言ってたな。
地球に帰還したパリサイドのうち、約一割は軍人。
それ以外は公募で選ばれた普通の市民。
地球に向ける望郷の念が、とても強い人達だという。
パリサイドの多くは、とても後悔してるのよ。
あの教団に心を奪われてしまったことを。
身体は変わってしまったけど、地球という星、人類という種、そしてその社会に深い思慕の念を注ぎ続けてきた。
どんな境遇にあっても。
ユウは、何度もこの言葉を使って、パリサイドを理解させようとする。
地球人類をこうして救出するより、できることなら、地球にまた住みたいと思っていたのよ。
もちろん地球人類と共に。
ただ、パリサイド数十億人すべてがそうかというと、そうでもないらしい。
頭のいかれた連中、とユウは吐き捨てるが、いまだに神を信じるものがいるらしい。
かつての神の国巡礼教団がでっち上げていた神ではなく、別の存在を信奉し始めたらしい。
少数派だから無視していいのかもしれないけど、危険な存在、とユウは顔を曇らせるのだった。




