148 旦那が優柔不断やと、大抵こういう妻になる
置手紙!
「暗くて読めへんぞ」
船室は真っ暗だった。
いつもはこんなことはない。
夜でも仄かな明かりはついている。
「電源が落ちたんか」
「のようやね」
非常誘導灯なのか、緑色のランプがあちこちに点灯している。
「チョットマのやつ、どこ行ったんや」
「あっちで読も」
パパ、ママ、ごめんなさい
私やっぱり、アイーナ市長に会って頼んでみます
チョットマ
とだけ書かれてあった。
「そうか……」
居ても立ってもいられなかったのだ。
納得もできないのだ。
自分がベータディメンジョンの調査に参加できないことが。
男性に限ると言われたことが。
「やれやれ」
それにしても、何も好き好んで危険な道を選ばなくても。
そうは思うが、もうチョットマは出かけてしまっている。
「自分で決めて自分で行動する。それでいいやん」
「まあ、そうやけどな」
もどかしさを感じながら、イコマはまた、しようのない奴やな……、と呟いて短い手紙を読み返すしかなかった。
「だいたい、パパが優柔不断やと、こういう娘に育つ」
「ふん」
「旦那が優柔不断やと、大抵こういう妻になる」
「きついこと言ってくれるやないか」
耳が痛い。
愛に対する己の優柔不断さは重々承知。
しかし、それはもう過去のこと。
の、はずだったのに。
「それはまた今度。で、今のん事故か?」
と、その時、再び揺れが襲った。
揺れは先ほどより小さいが、遠く、爆発音が聞こえた。
「まずいかも」
ユウは元の姿に戻っていたが、たちまちパリサイドの姿になると、
「ノブ、一緒に来て。抱いていくから」
「ん?」
「早く!」
と、その大きな腕に包み込まれてしまった。
「この方が速いから」
他の人々も起きだしていた。
不安げだ。
「ンドペキ! チョットマがアイーナに会いに行ってる。行き違いになるかもしれへん。もし帰ってきたら、みんなと一緒に居るように言うてくれ!」
そう叫んでおいて、イコマはユウの翼の中に納まった。
「まず、市長のところへ」
ユウはもう駆け出していた。
特殊な走法があるのだろう。飛ぶように速い。
「こういう場合のユウの持ち場は?」
「決まりはない。でも、行かな。その前にアイーナのところへ!」
「今、何時や?」
「午前四時!」
「後、三時間」
「そやね!」
揺れは収まっているし、爆発音ももうない。
ただ、その原因如何によっては、ミッションに支障があるかもしれない。
きっと今頃、市長はじめミッション関係者はてんやわんやだ。
「チョットマは僕が探すから、ユウは行くべきところに行ったらどうや」
が、返事はない。
どこかと通信して、状況を確認しているのだろう。
イコマは黙って、それが終わるのを待った。
下手な想像を膨らませても意味はない。
今後、自分が取るべき行動を考えておこう。
もし、ミッションが中止ないし延期になった場合の。
父として、夫として。
しかし、もどかしいことに、何の考えも浮かんでこない。
自分は今、どんな仕事もしていない。
隊の中にも、自分の立ち位置はない。
あるのは、チョットマの父であり、ユウの夫であり、アヤの父である、ただそれだけ。
それなのに、自分がどう振る舞えばいいのかさえ、分からない。
ただユウに抱かれて運ばれていくだけ。
情けない、とイコマは呟いた。




