145 時は来たり
「時は来たり! 市長として宣言します! 明日、二千六百六十六年一月十五日午前七時〇分、ベータディメンジョンへの扉を開きます!」
歓声が起きた。
しかしその声は、そのような場にふさわしくないざわめきと、奇妙な吐息に飲み込まれてしまった。
延期するんじゃないのか、というような声が聞こえた。
アイーナが立ち上がっていた。
係官がまた言葉を聞こうとしたが、それを制して、アイーナが口を開いた。
「誰だ! 文句があるのは! 私を見損なうんじゃないよ!」
厳しい目つきで一同を見回すと、ハスキーだが、アイーナの声とは思えない低い、迫力ある声が中央公会堂を揺るがした。
何が起きようと、グラン・パラディーゾが動く限り、このミッションは予定通り!
私達全員を地球に連れていく!
これまでの苦労を忘れた奴は、このスミヨシを去れ!
そして、二度と私の前に現れるな!
「そんなていたらくなことで、地球から避難して来られた皆さんに、顔向けができるのか!」
市長の強い意志が示された。
今度こそ、大きな歓声が沸き起こった。
涙ぐんでいる者がいる。
イコマは見た。
ユウの手が目尻を拭うのを。
そうだ! 市長の言うとおりだ!
そんな声が上がった。
星と交信できないことがどうだっていうんだ!
俺は、キョー・マチボリーを信じる!
市長を信じる!
アイーナ!
アイーナは手を上げて応えると、今日初めて笑みをこぼした。
再び、係官による代役が始まった。
では、明日の手順確認を始めてください。私はこれで失礼します。
明日の調査人員のことで、少々意見がありますが、それは彼に伝えておきます。
そして、会議が終わったら、予定通り、前夜祭を開催してください。
係官が市長退席を告げた。
理由の説明はなかったが、きっと体調が思わしくないのだ、と誰もが思った。
確かに、アイーナの声が、いつもと違っていたからだ。
拍手に送られていくアイーナの巨大な丸い背中が部屋から消えると、すぐに会議は再スタートした。
アイーナの伝言は、ベータディメンジョン調査の編成を縮小するというものだった。
斥候隊数名に、本隊五十名。
大幅な削減だ。
係官からその伝言があった時、残念だという呻き声が漏れたが、不測の事態に備えて大事をとる、そう、納得する声が多かった。
士気が落ちることはなかった。
本隊の中に、アイーナ自身が含まれていたからだった。
それに伴って、ンドペキ、スゥ、チョットマ、スミソの四名も、名簿から削除。
同行していただける場合も、一名のみ。男性に限る。
ンドペキにとって、不参加は選択肢にない。
スミソにしてみれば、元々、チョットマの護衛という意識がある。
必然的にンドペキの参加が決まった。
もちろん、スゥやチョットマが納得するはずもない。
それこそ取っ組み合いになるほどの剣幕で、「自分も行く」と主張したが、結局その主張は引っ込めざるを得なかった。
ユウの困った顔を見て。




